青い小鳥と魔法の歌

あらすじ:ココは、鳥達が暮らす世界、バードワールド。
そこに暮らす白い小鳥、カイ。
カイは声が出ず、空を飛ぶことも出来ず、他の鳥達からいじめを受けていました。
しかし、リエ、ラト、ロキ、エズ、レミ、ユウという6羽の小鳥はカイをとても大事に思っていました。
この7羽はとても仲良しで、いつも一緒に過ごしていました。
そんなある日、突然バードワールドが大変なことに…!
バードワールドを救うには、伝説の幸せの青い小鳥の魔法の歌が必要。
カイ達はバードワールドを救うため、伝説の幸せの青い小鳥を探す旅に出ます。

キャラクター紹介

リエ達も以前はカイにいじめをしてしまっていたが、カイが嵐の中逃げ遅れたリエ達を助け、ユウの翼の傷の手当てをしたことで心を通わせた。

カイ
本作の主人公。オスの白い小鳥。茶色の三角屋根の家に住んでいる。
内気な性格で、少し臆病。疑問文などの語尾に自身の名前である「カイ」をつけるのが口癖(「そうなの?」→「そうなのカイ?」など)。また、文中で「書いて」、「描いて」などが「カイて」表記になることがある。
声が出ず、空を飛ぶことも出来ない。そのため、他の鳥達からはいじめなどを受けている。いつどうしてそうなったのかは不明であり、カイ自身も分からない。言いたいことは手紙に書いて伝えており、常に便箋と封筒とえんぴつと色えんぴつと消しゴムをポーチに入れて所持している。便箋は相手が好きなものを選び、イラストをつけたりするなど、『楽しい手紙』を心がけており、イラストが得意。飛んで移動する際には誰かの背中に乗せてもらっている。「声が出ず、飛べない自分は小鳥として生きていけるのか」と自信を持てずにいる。外に出ることは少なく、リエ達が手を引っ張ってくれることが多い。たまに自分の意思で外に出ることもある。
だが、純粋な心を持ち、自分に対しいじめをしてしまうコルウォやイヴン達にも冷たくすることはなく、当時自分にいじめをしてしまっていたリエ達を「放って置けない」「いらない命はない」と身を挺して嵐の中助けに行き、ユウの翼の傷の手当てをするなど心から他鳥を思いやる優しさと仲間のためなら危険を試みない勇気を持っている。

誕生日:4月15日午前10時11分生まれ

リエ
本作のヒロイン。メスのピンクの小鳥。茶色の三角屋根の家に住んでいる。
内気なカイを支えるしっかり者。根がしっかりしておりカイをいじめる鳥などにもきっぱりとした態度で接している。
とても可愛らしいみんなのアイドル。
名前の由来は「さえずり」から。

誕生日:3月21日午前7時2分生まれ

ラト
オスの緑の小鳥。茶色の四角い家に住んでいる。
真面目で勉強家。様々なことに詳しく、みんなに頼りにされている。

誕生日:10月25日午前3時12分生まれ

ロキ
オスの黄色の小鳥。茶色の四角い家に住んでいる。
いつも元気なみんなのムードメーカー。楽しいことが大好き。
名前の由来は英語で「黄色」を表す「イエロー」。

誕生日:1月9日午前8時6分生まれ

エズ
オスの黒とオレンジの小鳥。白の四角い家に住んでいる。
落ち着いた性格。普段は物静かだが、カイをいじめる鳥達にははっきりと物を言う。面倒見がいい一面もある。
名前の由来はリエと同様「さえずり」から。

誕生日:6月11日午後8時5分生まれ

レミ
オスの緑と黄色の小鳥。焦茶色の四角い家に住んでいる。
少し心配症だが、仲間思いで努力家。

誕生日:5月24日午後3時16分生まれ

ユウ
オスの夕日のようなオレンジの小鳥。焦茶色の三角屋根の家に住んでいる。
明るく冒険好きだが少々無鉄砲で、レミをいつもハラハラさせている。
名前の由来は「夕日」から。

誕生日:9月10日午後6時3分生まれ

コルウォ
オスのカラス。イヴンとは双子。

イヴン
オスのカラス。クロウと同様カイをいじめたりからかったりする。クロウとは双子。

コーゼ
シジュウカラ。ツピの父。

マイ
ツピの母。

ツピ
コーゼのマイの子供のシジュウカラのヒナ。名前の由来はシジュウカラの鳴き声から。

第1話「小鳥達の旅立ち」
ココは、鳥達が暮らす世界、バードワールド。
ココはバードワールドの森です。
夕日のようなオレンジの小鳥が、空を飛んでいます。名前はユウ。
「ふつうに飛ぶんじゃつまんないな。そうだ!」
ユウはスピードを上げたり、急ブレーキをかけたりしました。
「わあ!」
木の枝にぶつかりそうになって、ちょっとハラハラしたけど、冒険が大好きなユウは楽しくてたまりません。
「うわあ、おもしろいや!いろんな飛び方をしてみよう!」
そんなユウに、緑と黄色の小鳥が地上から声をかけました。
「ユウ、気をつけてよー!」
「大丈夫だよ、レミ!」
「本当に大丈夫なの?」
レミと呼ばれたその小鳥は心配そうにユウを見ていました。
レミのそばに、黒とオレンジの小鳥が舞い降りました。
「ユウは無鉄砲だからなあ…。」
「あっ、エズ。」
エズは空へと飛び立ち、ユウの元へ行きました。
「危ないよ、ユウ。翼が傷ついたら治るまで飛べないんだよ。」
「大丈夫だって!」
ユウは気にすることなく飛んでいってしまいました。
「ついさっきも木の枝にぶつかりそうになったじゃないか…。」
エズは呆れてしまいました。
ユウがしばらく飛んでいると、木の枝にいた黄色い小鳥がユウに話しかけました。
「ユウ、何してるの?」
夢中で飛んでいたユウは急ブレーキをかけて言いました。
「いろんな飛び方を試してるんだ。」
それを聞いた黄色い小鳥は目を輝かせて言いました。
「楽しそう!僕もやっていい?」
「もちろん!」
黄色い小鳥は元気よく枝から飛び立ちました。
黄色い小鳥はユウに聞きました。
「どんな飛び方を試してるの?」
ユウは答えます。
「スピードを上げたり、急に止まったりしてみたんだ。」
「いいね!よし、行くぞー!」
黄色い小鳥も、スピードを上げたり、急ブレーキをかけたりしました。
黄色い小鳥は笑顔で言いました。
「おもしろいよ!ユウ、もっとやろう!」
「そうこなくっちゃ!」
ユウと黄色い小鳥は楽しそうにいろんな飛び方を始めます。
この黄色い小鳥はロキ。楽しいことが大好きで、楽しそうなことを見つけると、すぐに飛びつきます。
別の場所では、緑の小鳥が切り株のそばで他の鳥達と話しています。
「切り株の年輪の数はね、木の年齢を表しているんだ。この切り株は、14本あるから、14歳だね。」
「そうなんだ。初めて知った。」
「すごいわ。やっぱりラトはいろんなことに詳しいわね。」
緑の小鳥は照れくさそうに言いました。
「あ、ありがとう、そんな大したことじゃないよ…。」
この緑の小鳥はラト。真面目で勉強家で、いろんなことに詳しくて、みんなに頼りにされています。
でも、ラトは自分がいろんなことに詳しいことを自慢しませんでした。
その時、ピンクの小鳥が飛んできました。
「みんな、こんにちは!」
その声を聞くと、みんなはその小鳥の方を向きました。
このピンクの小鳥はリエ。とってもかわいい、バードワールドのアイドル。
リエは空へと飛び立ち、今日もみんなが楽しそうにしているのを見て、うれしそうにほほえみました。
鳥達は、飛んだり、遊んだり、話したり、今日も明るいバードワールドです。
そんな様子を、家の中から1羽の白い小鳥が見つめていました。
白い小鳥は心の中でつぶやきました。
「(みんな、今日も飛んだり、話したり、楽しそうだなぁ…。)」
この白い小鳥の名前はカイ。カイはあまり外に出ず、みんなの様子を家の中から見ていることが多い小鳥でした。
「(僕も外に行ってみようかな)」
そう思ったカイは、便箋と封筒とえんぴつと色えんぴつと消しゴムの入ったポーチをかけて、外に出ました。
すると、2羽のカラス、コルウォとイヴンが飛んできました。
コルウォが言いました。
「カイ。外に来たんだな。」
カイは小さくうなずきました。
イヴンがカイを小馬鹿にしたように言いました。
「おい、なんか言えよ。」
「・・・・・・・」
カイは何も話しません。
「ちょっとイヴン、カイは話せないんだよ。」
コルウォがイヴンに言いました。
イヴンはわざとらしく言いました。
「あ、そうだった!ごめんなー、カイ!」
カイは声が出ず、他の鳥に話しかけられても、声を返すことが出来ませんでした。
コルウォとイヴンはカイをからかったのです。カイが声が出ないなんて、ほとんどの鳥が知っています。
だから、みんなは、あまりカイに話しかけませんでした。
カイはひとりぼっちでさみしくて怖く思っていました。
今度はコルウォがカイに言いました。
「カイ、なんで君は飛ばないの?飛ぶのが怖いのか?」
カイはポーチからコルウォとイヴンが好きな便箋と封筒を取り出して、手紙を書いて封筒に入れて、コルウォとイヴンに差し出しました。
声が出ないカイは、声の代わりに手紙で気持ちを伝えていました。
コルウォとイヴンが手紙を受け取って、開いてみると、こう書いてありました。
「僕は空が飛べないんだ。でも、怖いなんて思わないよ。いつも飛びたいなって思ってる。」
カイは、空が飛べず、他の鳥達が見ている空の上からの景色を知らない小鳥でした。
「『いつも飛びたいなって思ってる』だってさ。飛べないのに変だな。」
コルウォが言いました。
コルウォの言葉を聞いたカイは思いました。
「(飛べないのに飛びたいって思うって変なのかな)」
カイは、自分の動かしても飛べない白い翼を見つめました。
「(動かしても飛べない翼ってなんなの?僕は小鳥?)」
そう思うと、カイは自分の翼を見るのが嫌になってきて、自分の翼から目を背けました。
カイはいつもみんなのように声を出して話したり、自分の翼で空を飛びたいと思っていました。
他の鳥達は他の鳥と違うカイを何となくのけ者にしてしまっていました。
するとそこに、リエ、ラト、ロキ、エズ、レミ、ユウが飛んできました。
「カイ!」
リエ達はカイ達のそばに降りました。
「コルウォ、イヴン!カイをいじめないで!」
ロキがコルウォとイヴンに言いました。
「いいじゃないか。カイは話せないし、飛べないんだから。」
カイが泣きそうになると、ラトが言いました。
「それは悪いことじゃないよ。」
エズは言いました。
「さあ、カイ、行こう。」
カイがうなずいて、リエ達の元に行こうとすると、コルウォとイヴンはちょっと悔しそうにしてリエに言いました。
「リエー、カイなんかと行かないで、俺達と行こーぜ。」
「そうだよ、カイは話せないし、飛べないし、一緒にいたって楽しくないよ。」
リエは言いました。
「コルウォ、イヴン、カイをそう言わないで!カイは話せなくても、飛べなくても、とっても優しくて勇気があるわ!」
「お、おう…。」
カイは心の中で言いました。
「(リエ…)」
「カイ、行きましょう。」
カイはリエ達の元に行きました。
リエはかがんで言いました。
「カイ、わたしの背中に乗って。」
カイがリエの背中に乗ると、リエ達は飛び立ちました。
リエ達のそばに行くと、カイはなんだか胸がポカポカして、さっきこぼれそうになった涙が、カイの白い羽毛を伝って、リエのピンクの翼を濡らしました。
リエは自分の翼がカイの涙で濡れるのを感じて、カイの気持ちをひしひしと感じました。
カイは上を見上げました。
「(空ってなんて広いんだろう。)」
地面やリエ達の背中にぎゅっと掴まっていなければ、空に落っこちてしまいそうです。
それからカイは下をのぞきました。
花や他の小鳥達が小さく見えます。
いつもとは違った景色になんだかドキドキします。
「(なんだか、僕らが大きくなったみたい。)」
リエ達は、カイをいじめたり、のけものにしないでいつも一緒に過ごしていました。
カイはリエ達といるとなんだかほっとしました。
リエ達の背中に乗せてもらっている時だけに限らず、カイにとってリエ達と過ごす時間は、いつもある時間だけど、特別な時間です。
「(みんなってなんだか、あったカイ…)」
カイはリエの背中で風にふかれて、とてもあったかくて、優しい気持ちになりました。
カイは、リエ達と会うと、夜も眠れるようになりました。
前は、他の鳥からいじめられたりからかわれたりすると、不安で眠れなくなることもあったけれど、リエ達と会った日は安心であったかく感じました。
カイを背中に乗せて飛んでくれる鳥はリエ達だけでした。
他の鳥達は「カイはいつも翼が濡れていて気持ち悪いから嫌だ」というのです。
でも、リエ達と出会ってからカイの翼は濡れなくなったんです。
他にも、カイが書く手紙が雫が落ちたように濡れていたのも、なくなりました。
カイは、リエ達が大好きでした。
ところで、鳥達は歌が大好き。よく歌います。
カイは歌うことはできないけれど、みんなの歌を聞くのが好きでした。
鳥達は仲間を呼ぶ時も、歌って呼びます。
鳥達は、仲間の鳥達の声をしっかり覚えています。
1羽1羽を呼ぶ時の歌は違う歌で、声と歌を聞き分けて鳥達は誰に自分が呼ばれたかどうかがわかるのです。
レミが木々の奥の方へ飛んで行こうとすると、歌声が聞こえてきました。
レミを呼ぶ時の歌、エズの声です。
「エズが呼んでる。」
レミはエズの歌声が聞こえた方に飛んで行きました。
エズを見つけると、レミはエズに聞きました。
「エズ、どうして僕を呼んだの?」
「レミ、そっちには木の奥の方には、いばらがたくさんあるから、危ないよ。」
「そっか。ありがとう、エズ。」
「どういたしまして。僕、知らないでいばらの中に入っちゃって翼が傷ついて飛べなくなっちゃったことがあって。」
「ええっ、でも今は飛べるの?」
「ラトが傷に効く薬草を見つけて来てくれて、みんなが薬にして持ってきてくれて、それをつけたらすぐに治ったよ。」
「そうなんだ。よかった。やっぱりラトっていろんなことに詳しいね。」
「そうだね。」
他にも鳥達は、怖い時や悲しい時にも歌いました。
リエがいつもみんなと集まっておしゃべりをしたり遊んだりしていた木のところに行ってみると、この前の嵐で折れてしまっていました。
「あっ、木が…。」
リエは涙を一雫こぼした後、歌いました。
木への気持ちを歌いました。
木はなんだか喜んでいるようでした。
次の日、リエが木のところに行ってみると、小さな芽が出ていました。
またきっと元通りになります。
リエはそれをみてにっこり笑いました。
ある日、カイ達は夜みんなで鈴を持って星を見る約束をしました。
エズはカイを乗せて約束の場所に向かいます。
カイは暗い夜もエズが近くにいてくれると、ちっとも怖くありませんでした。
ラトも外に出ましたが、真っ暗でとても怖いと思いました。
下をのぞくと闇の海のようです。
闇に入って行くようで、緑の翼が凍りついたみたいで飛び立てません。
でも、みんなのところに行きたかったラトは、歌いました。
歌うと、なんだか元気が出てきました。
「約束の時間に遅れちゃう。行かなきゃ。」
ラトは飛び立ちました。
みんなが約束の場所に集まると、リエは言いました。
「みんな、鈴はある?」
「うん!」
みんなは鈴を出してみせました。
みんなは星を見ながら鈴で「きらきら星」を演奏しました。
他の鳥達は歌うことが多いですが、カイ達7羽は鈴で演奏をしていました。
みんなで見る星は1羽で見るよりずっと綺麗でした。
星はカイ達を優しく照らしていました。
鳥達はこうして、平和に暮らしていました。
しかし、ある日…。
朝、カイが目を覚ますと、なんだか胸騒ぎがします。
いつものバードワールドではないみたい。
外に出ると、いつもの森ではありません。
木は倒れ、草花は枯れ果てています。
カイが周りを見渡すと、リエ達が見えました。
心配が胸に押し寄せたカイは、枝から飛び出しました。
そこで、カイははっと思い出しました。
自分が飛べないことを。
思い出すよりも早く、カイは地面に吸い込まれます。
カイは思わず翼を動かしましたが、地面に叩きつけられました。
「(いたた…。)」
カイが立ち上がろうとしたとき、周りの鳥達が言いました。
「カイ、何やってんの?」
「飛ぼうとでも、したんじゃない?」
「カイ、自分が飛べないこと、受け止められないんだよ。」
カイはそれを聞くと、力が抜けたみたいで、立ち上がるのをやめてしまいました。
「(話せないとか…飛べないとか…そんなの、僕が1番知ってるよ…。)」
カイが泣きだすと、周りの鳥達は、
「あー、また泣いてる」
「カイってほんとおかしいよね」
そこへ、リエ達が飛んできました。
「カイ!」
周りの鳥達は言います。
「カイがまたおかしなことやってるんだよ。飛べないのに飛ぼうとして…。」
「みんな、カイにそんなこと言っていいわけないよ!」
普段物静かなエズの声に、カイをいじめていた鳥達は驚きました。
「エズ…。」
でも、1番驚いていたのは、カイでした。
カイはすくっと立ち上がって、リエ達のそばに行きました。
「みんな、バードワールドがいつもと違う…。」
「少し辺りを見てみようよ。」
「ちょっと僕達で辺りを調べてみようよ。」
リエ達は辺りを飛び回って、カイは地面を動き回って、あちこちを調べてみましたが、何も手がかりが掴めませんでした。
「何があったのかな?」
「どうしたらいいかしら…?」
みんなが顔を曇らせる中、ラトが言いました。
「ねえ、ルージャさんのところに行ってみない?」
「そうだね、ルージャさんなら何か知ってるかも。」
フクロウのお爺さん、ルージャは、森の賢者です。
小さな鳥達が困っているといつも助けてくれます。
「ルージャさんのところに行くなら、夜まで待とうか。」
フクロウのルージャは、夜行性の鳥。昼間は眠っています。
夜になると、カイ達はルージャの巣に向かいました。
カイはレミの背中でうとうとして、レミの背中から落ちそうになってしまいました。
「(いけない、落ちちゃうところだった)」
「カイ、気をつけて」
カイ達はルージャの巣に着きました。
「お邪魔します」
巣からルージャが出てきました。
「おや、カイ達か。」
「こんばんは。あの、バードワールドが大変なんです…!」
「ええっ!?」
ルージャは外を見て、言いました。
「これはひどい…。」
「僕達、辺りを調べてみたんですが、何かしら手がかりがなくて…。」
「私の本をみてみよう。」
賢者であるルージャの巣には、分厚いたくさんのことが書いてある本がいっぱいあります。
ルージャは本棚から一冊の本を取り出すと、ページをめくり始めました。
どのページにも字が敷き詰められていて、まるで字の海です。
ルージャはあるページでめくるのをやめました。
「何か見つけたんですか?」
「バードワールドを救う方法があるかもしれない…。」
「ええっ!?」
カイ達は本を覗き込みました。
そのページは、青い小鳥について書いてありました。
「青い小鳥ですか?」
「ああ…青い小鳥は、青空のような美しい色をして、透き通ったとても美しい声を持ち、青い小鳥にしか歌えない魔法の歌が歌える…その魔法の歌があれば、バードワールドを救えるらしい…。」
「(青空みたいな綺麗な色…透き通った歌声…青い小鳥って僕とは大違いだな…)」
カイは、青い小鳥が自分とはとても遠い存在に思えました。
「青い小鳥ってどこにいるんですか?」
「それは、誰にもわからないんだ。現実に青い小鳥を見た鳥は1羽もいないらしい…。」
みんなはしばらく何も言えませんでした。
やがて、カイはポーチから鉛筆と便箋を取り出して、手紙を書くと、みんなに差し出しました。
「カイ、どうしたの?」
みんなが手紙を受け取って、開いてみると、
「僕たちで青い小鳥を捜しに行こうよ!」
と書いてありました。
「カイ…。」
でも、すぐにカイはハッとして、また手紙を書きました。
みんなが手紙を受け取って開いてみると、
「ごめん…いきなり…飛べないし、話せない僕が何言ってるんだって話だよね…。」
でも、ユウは首を横に振り、言いました。
「そんなことない、飛べなくても、話せなくても、みんなのために何かすることはできるんだよ。」
普段は心配性なレミは、カイにはっきりと言います。
「カイ、自分なんかダメだって思うことが、1番いけないよ!自分をもっと信じて!」
エズは、しみじみと言いました。
「カイはいつも優しくて、勇気がある、何よりも大切なものを持ってるじゃないか。」
ロキは明るく元気に、
「カイにしかできないこともあるよ。僕たちはカイを信じてる。」
ラトは、カイを真っ直ぐ見つめて、
「カイなら大丈夫さ。だって僕たちの仲間なんだから。」
リエは優しく、でも熱を込めて、言いました。
「バードワールドを救うには、カイの力が必要なの。わたし達からのお願い、みんなで青い小鳥を探しに行きたいの。」
みんなの言葉を聞いたカイは、胸が苦しくなりました。
カイはいつも、コルウォやイヴン達の言葉に負けて、逃げてばかりでした。
でも、リエ達はカイを信じてくれているのです。
カイは胸が熱くなりました。
カイは手紙を書いて、みんなに差し出しました。
みんなが手紙を受け取って、開いてみると、
「僕、みんなと青い小鳥を捜しに行くよ!」
と書いてありました。
その手紙にリエ達はにっこりと笑いました。
「ありがとう、カイ!」
ルージャは言いました。
「出発する前に、今は君達はお休みの時間だな。」
「あっ、そうだった。」
カイ達はルージャに会うために夜も動いていました。
カイ達は急に眠くなりました。
「それじゃあ、今夜はしっかり寝て、明日出発しましょう!」
「うん!」
カイ達はそれぞれの家に戻りました。
リエはカイを乗せて家まで送ります。
カイはリエの背中でこんなことを考えていました。
自分たちは明日旅立ちます。
カイ達はほとんど森から出たことがありませんでした。
外の世界を見るのです。
青い小鳥が見つかるのかも、いつ森に帰ってこられるのかもわかりません。
でも、みんなの言葉で、怖い気持ちは減ったのです。
それに、カイはみんなの笑顔を守るためにも、青い小鳥を捜しに行きたいと思うようになりました。
カイの家に着くと、リエはカイをおろしました。
「カイ、明日からよろしくね」
リエはにっこり笑いました。
カイもこくりとうなずきました。
リエも家に戻りました。
カイ達はその夜、青い小鳥を思いながら眠りました。
朝になりました。
いよいよ旅立ちです。
「森の外に行くんだね。初めてのものだらけだよね…。」
レミはちょっとドキドキです。
「森の外にはどんな物があって、どんな鳥がいるんだろう?早く見てみたい!」
ユウは森の外にある冒険に胸を膨らませます。
「それに、どんな楽しいこと、面白いことがあるんだろう?青い小鳥を見つけたときは、どれだけたくさんの思い出ができてるのかな?」
ロキもワクワクでいっぱいです。
「青い小鳥を見つけたら、話してみたいな。青い小鳥にしか歌えない魔法の歌って、どんな歌なんだろう?」
ラトは青い小鳥のことをもっと知りたいと思っていました。
「ちょっと、みんな、遊びに行くんじゃないんだよ。青い小鳥を見つけないと。」
エズはそう言いましたが、本当はエズも外の世界にどんなものがあるのか、どんな鳥がいるのか、興味があったのです。
リエはにっこりしながら言います。
「みんなと一緒なら、楽しいことも、面白いことも青い小鳥も、きっと見つかるわ。」
カイも明るくうなずきます。
カイの笑顔に、みんなもうれしくなりました。
「それじゃあ、行きましょう。」
リエはカイを背中に乗せました。
リエ達は森の出口に向かって飛び立ちました。
「行ってらっしゃい!」
「気をつけてね!」
他の鳥達が見送ります。
木々の間を抜けると、そこはもう森の外です。
カイ達は目を見張ります。
初めて見る、森の外の世界。
でも、森の外もやはり荒れていました。
草原の草花は枯れ、地面はでこぼこしています。
カイ達は胸が痛みました。
それと同時に、カイ達の胸には強い気持ちが湧いてきました。
「青い小鳥を見つけたい」と。
森の鳥達のためにも、森の外の鳥達のためにも、青い小鳥を必ず見つけよう。
カイ達はそう心に決め、リエ達は力強く羽ばたきました。
カイは住み慣れた森がどんどん離れていくのをドキドキしながら見下ろします。
これから、どれだけたくさんのことが待っているのか、森へ帰ってきたときは、自分達はどう変わっているのか…。
わからないことや、知らないこともたくさんあるけれど…。
でも、大丈夫、みんながいるから。
カイはそう思いました。
新しい世界へ向かうカイの翼は、飛べなくても、太陽の光を受けて、輝いていました。
カイ達は強い気持ちを胸に、旅立ちました。
こうして、カイ達の青い小鳥を探す旅が始まったのです。

第2話「新しい世界」
バードワールドを救うため、伝説の幸せの青い小鳥を探す旅に出たカイ達。
カイ達は初めて森の外へ出ました。
見るもの全てが初めてのものばかりです。
ワクワクするような少し怖いような不思議な気持ちです。
森の外も荒れ果てていました。
カイ達は荒れたものを見るたび、胸がギュッとなり、「青い小鳥を見つけたい」という気持ちはどんどん大きくなります。
この辺りも以前は豊かな自然があったようです。
森では見たことのない木もあります。
「こんな木、初めて見るよ!」
ロキは好奇心いっぱいの目で周囲を見回します。
ラトは、森にはなかったバラの木を見つけました。
「あっ、本で見たバラだ!みんな、近くで見に行っていい?」
「うん、行ってみよう。」
カイ達はバラの近くに降りました。
「うわぁ、きれいなバラだね。」
レミが身を乗り出すと、ラトが言いました。
「バラの花の茎には、トゲがあるから、気をつけてね。」
「ほんとだ。ありがとう、ラト。」
「甘い香り…ほら、ユウも…」
エズが声をかけましたが、ユウの姿がありません。
「あれ、ユウがいない!」
「どこに行ったのかな?」
「ユウ、もしかして探検にでも行っちゃったのかな?」
無鉄砲で冒険好きなユウのことです。
「やれやれ、ケガしてないといいけど…。」
エズは冷静に振る舞いますが、心の中は心配でいっぱいでした。
カイ達はユウを探しに向かいます。
「ユウ、どこにいるのー?」
「危ない目に遭ってないといいけど…。」
「ユウはオレンジ色だから、緑の中だとすぐ見つかると思うんだけど…。」
森にいた時でも、ユウはみんなが止めるような場所にも平気でいってしまいます。
強い雨が降る日、ユウが川の近くに行ってしまい、みんなで急いで連れ戻したこともありました。
しばらく辺りを探すと、木の枝にオレンジ色が見えました。
「あっ、ユウかな?」
カイ達がその枝に降りると、そこにはユウがいました。
「あっ、みんな!」
「ユウ、ここにいたんだね。」
「よかった、心配したよ。」
「もう、勝手にどこか行かないでね。」
「ごめんね。あのね、みんな、スズメさんっていう鳥に会ったんだ!」
「スズメさん?」
ユウのそばにはスズメというらしい小鳥がいました。
スズメは言いました。
「こんにちは、君達はユウ君の仲間?」
カイ達はうなずきました。
カイは思いました。
「(スズメさんって森にいたニュウナイスズメさんによく似てるなぁ…)」
ニュウナイスズメとは、一般的なスズメとは違い、林や森などに住んでいるスズメです。
カイ達が住んでいた森にもニュウナイスズメ達が住んでいました。
スズメはカイ達に言いました。
「僕はニュウナイスズメじゃなくて、スズメだよ。」
「スズメ?」
「僕たちスズメは森じゃなくて、平地で暮らしているんだ。」
「そうなんだ。」
「森にいた鳥と似てるけど、違う鳥もいるんだね。」
カイ達は初めて森の外で暮らす鳥に会いました。
「もしかして君達、そこの森から来たの?」
「うん、伝説の幸せの青い小鳥を探してるんだ。」
「青い小鳥…?そう言えば最近バードワールドが荒れているけど…。」
「青い小鳥にしか歌えない魔法の歌があればバードワールドを救えるらしいんだ。」
「魔法の歌か…魔法っておとぎ話の中だけだって思っていたけれど、本当のことなのかな…?」
みんながスズメと話している中、声が出ないカイはみんなの様子を見ているだけでした。
カイは「声を出して話すってどんな感じかな?」といつも思っていました。
何も話さないカイに気づいたスズメは思いました。
「(初めての相手が苦手な子なのかな…。」
スズメもカイにどう接すればいいのかわからず、なかなか声をかけられませんでした。
ずっと黙っているのもどうかと思ったカイは、手紙を書いてスズメに差し出しました。
「手紙?」
スズメが手紙を受け取って、開いてみると、こう書いてありました。
「僕は声が出せないんだ。だからみんなに何か伝えたい時は言葉の代わりに手紙を書いているんだ。空も飛べないから、飛んでどこかに行くときは、みんなの背中に乗せてもらってるんだ。」
スズメはカイの手紙を読んで、カイが何も話さない理由を知りました。
「(初めての相手が苦手なわけじゃなかったんだ…。」
スズメはカイが自分を苦手に思っているのではないとわかり、安心しました。
スズメも話せない、飛べない鳥に会うのは初めてでした。
ラトが言いました。
「スズメさん、青い小鳥のこと、何か知らない?」
スズメは言いました。
「ごめんなさい、僕にはちょっとわからないんだ…そうだ、この先にいろんな鳥が集まってる広場があるから、そこでみんなに聞いてみない?」
「よし、行ってみよう!」
リエはカイを背中に乗せ、リエ達はスズメと飛び立ちました。
しばらく飛んでいくと、広場がありました。
いろいろな鳥達がいます。
「初めて見る鳥さん達がいっぱいいるね。」
1羽の黒と茶色の羽毛と黄色のくちばしを持った小鳥がスズメに話しかけました。
「あれ、初めて見る鳥さん達だね、お友達?」
「あそこの森から来た子達みたいなんだ。えっと、 名前は…」
カイ達とスズメはお互いに初めて会った鳥との話に夢中で、お互いの名前を聞き忘れていたのです。
「僕はルリオ。君達は?」
「わたしはリエ。」
「僕はラトです。」
「ロキだよ。」
「僕はエズっていうんだ。」
「僕、レミ。」
「僕はユウだよ。」
カイは手紙を書きました。
スズメが手紙を読んでみると、
「僕の名前はカイ。」
と書いてありました。
ルリオは言いました。
「みんな、すてきな名前だね。」
「あ、ありがとう。」
黒と茶色の羽毛と黄色のくちばしを持った小鳥は言いました。
「僕はムクドリのリンド。」
「ムクドリって初めて聞く鳥さんだなぁ…」
「椋の木の実をよく食べているから、ムクドリって呼ばれてるみたい。声がうるさいってよく言われちゃうな。」
「リンド、夜に鳴くのはやめてよね!」
カイ達はムクドリという鳥のことも知りました。
「こんな鳥さんもいるんだ…。」
「リンド、カイ君達、伝説の幸せの青い小鳥を探してるんだって。」
「伝説の幸せの青い小鳥?」
「最近バードワールドが荒れていて…。」
「そう言えば、何か最近変だと思ってたな…。」
「青い小鳥にしか歌えない魔法の歌があれば、バードワールドを救えるらしいんだ。」
「魔法の歌かぁ…」
リンドは不思議そう。
その時リンドも、カイが何も話さないことを疑問に思い始めました。
その様子に気づいたルリオは、カイが声が出せないことをリンドに伝えようとしましたが、言葉が口元まで押し寄せたとき、それを口に出すのをやめました。
カイのことは、カイが自分で伝えるもの。そうルリオは思ったのです。
カイは手紙を書きました。
リンドが手紙を受け取って、開いてみると、
「僕は声が出せないんだ。だから声の代わりに手紙で気持ちを伝えているんだ。空も飛べないから、飛んでどこかに行くときはみんなに運んでもらっているんだ。」
「(そうだったんだ…。)」
これでリンドもカイが話さないことを疑問に思いません。
でも、カイは少し悲しくなりました。
話せない、飛べないカイはどこでも違う目で見られます。
カイはルリオやリンドに、自分が話せない、飛べないことを伝えるのを怖く思っていました。
みんなにそのことを伝えても、カイがみんなと違うことは変わりません。
カイは新しい世界に行っても、できないことは変わりません。
未知の場所に行っても、自分は変われないのかな…?
そう考えていたカイは、あることに気づきました。
ルリオやリンドの表情が少し曇っていることです。
どうしてかな、と思い、そばにあった葉っぱの雫を覗いてみると、そこには自分の暗い顔が映っていました。
カイの頭の中にある考えが浮かび、カイはまた胸が苦しくなりました。
みんなと違うカイに、みんなはどう接すればいいのか悩んでいたのです。
ルリオが中々声をかけられなかったのも、どう接すればいいのかわからなかったからでした。
カイが暗い顔をすると、周りの鳥達は「うまく接することができていないのかな?」と不安になります。
話せる、飛べる他の鳥達は、悩むことなんてない、僕が暗くなっても誰も困らないと思っていたカイでしたが、そんなことはなかったのです。
カイは雫を覗きながら、少し表情を明るくしてみました。
そうすると、ルリオやリンドの表情も明るくなったみたいです。
カイ、ルリオとリンドのその様子を見て、リエ達もにっこり笑いました。
みんなは話を元に戻します。
「リンドさんは、青い小鳥のこと、何か知らない?」
「僕にもちょっとわからないなぁ…。」
やはり森の外の小鳥も見たこともないようです。
そこへ他の鳥達も集まってきました。
「森から来た鳥さん達なの?」
「青い小鳥って何?」
ルリオとリンドが言いました。
「そこの森から来た鳥さん達なんだ。青い小鳥を探してるんだって。」
「青い小鳥にしか歌えない魔法の歌があれば、バードワールドを救えるらしいよ。」
「森から来た鳥さん達に会うなんて、初めてだよ!」
「青い小鳥?魔法の歌?荒れたバードワールドを救う方法があるの?」
他の鳥達は初めて会うカイ達、青い小鳥のお話にザワザワ。
ルリオやリンド達は森に入ったことがなかったのです。
カイ達も森の外で暮らす鳥に会うのは初めてですが、ルリオやリンド達も森で暮らしていた鳥に会うのは初めてだったのです。
初めての相手と話すのはちょっとドキドキしますが、相手も同じようにドキドキしているのです。
初めての世界に初めての相手…。
「初めて」に対する気持ちはそれぞれ違います。
「初めて」にワクワクし、言葉が口元まで押し寄せるユウ、うまく話せるかな、ちょっと緊張気味なレミ、話せない、飛べない自分が受けられてもらえるのか不安なカイ、でも、暗い表情はしません。
お互い少し緊張していて、ちょっと暗いような空気です。
リエは、思い切ってみんなに言ってみました。
「ねえ、みんなで歌を歌ってみない?」
「すごく面白そう!」
「歌は大好きよ!」
固まっていたみんなの顔が、一気に明るくなります。
「何の歌を歌う?」
リエは言いました。
「青い小鳥の歌なんてどう?」
「青い小鳥の歌?」
「すごい!どんな歌なの?」
「わたし達で青い小鳥の歌を作ってみようと思うの。」
「自分達で歌を作るなんて、ワクワクする!」
みんなの瞳が輝きます。
そして、リエはカイに言いました。
「カイ、歌を覚えられるように、歌詞が決まったら歌詞を紙に書いてくれない?」
カイはとても嬉しくて、にっこりと頷きました。
話せない、飛べない自分を頼りにしてくれるなんて…。
カイは嬉しくてたまりません。
「それじゃあ、みんなで歌詞を考えよう!」
アイディアを出すには、お散歩するのが1番です。
みんなはそれぞれあちこちに飛び立ちました。
川の方に飛び立ったルリオ、ユウ、レミ。
「わぁ、すごい!ねえ、入ってみていい?」
川を覗き込むユウをルリオとレミは慌てて止めます。
「危ないよ、浅く見えても流されちゃうかもしれないよ!」
「ちょっとだけだから。」
ユウが言う「ちょっとだけ」はちょっとじゃありません。
「ちょっとだけ」と言って夜中に外に行ってしまい、ルージャに家に帰されたこともありました。
透き通った川を見つめていたレミが言いました。
「川って透き通って、光が当たるとキラキラして、すごくきれい。みんなに幸せを運んでくれる青い小鳥みたい。」
レミの言葉を聞いたルリオとユウの顔がぱあっと明るくなります。
「最高のアイディアだよ、レミ!」
「あ、ありがとう…。」
「どんな歌詞にしようか?」
ユウとレミ、ルリオはキラキラ揺らめく水面を眺めながら歌詞を考えます。
お花畑の方に飛んで行ったリンドとエズ、ラト、ロキ。
「きれいなところだね!」
「森では見なかった花がたくさんあるなぁ。」
「森の外にこんな場所があるなんて、知らなかったよ!」
リンドは楽しそうに言います。
「ここもみんなでよく遊ぶ場所なんだ。」
ロキの胸にワクワクが込み上げ、ロキは翼をいっぱいに広げます。
「みんな、花を近くで見に行ってみようよ!」
ロキは言い終わらないうちに飛んで行ってしまいました。
「あっ、ロキ、待ってよ!」
リンド、エズとラトも飛び立ちました。 
花を見て回るリンド、エズ、ラト、ロキ。
「花びらがたくさんある花と、少ない花があるね。」
「花をじっくり見ることって今まであんまりなかったなぁ。」
「次はどの花を見てみようかな?」
「季節によっていろんな花が見られるんだよ。」
みんなが飛び回っていると、枯れた花を見つけました。
お花畑も少し荒れているようです。
みんなは枯れた花の近くに降りました。
「ここも荒れているんだね…。」
みんなは胸がしくしく痛くなりました。
その時、エズが言いました。
「見て、あれ…」
枯れた花のもう一本の茎から、小さな芽が出ています。
小さくても、被害に負けず一生懸命に生きている芽は、輝いているようでした。
芽を見つめていたラトの頭にあるアイディアが浮かびました。
「歌を歌うと元気になれるよね。」
みんなはにっこりうなずきます。
「青い小鳥は魔法の歌が歌えるんだよね。この芽みたいにつらいことがあったときも頑張れる元気をくれるのかな。」
「すごくいいアイディアだよ!」
「もっと歌が楽しみになるね。」
「魔法の歌に負けないくらいすてきな歌を作っちゃおう!」
リンド、エズ、ラト、ロキは花が開くように次々とアイディアが浮かびます。
リエはカイを連れて木の高いところの枝まで行って、空を見ていました。
カイは考えていました。
今はリエと2人きりです。
前にもリエと2人きりになったことがありました。
旅立つ前日、リエが家まで運んでくれた時です。
あの時は住み慣れた森だったけれど、今は知らない場所です。
知らない場所で誰かと2人になるのは初めてです。
青い空を見つめていたカイは思いました。
リエ達はいつもカイを乗せて空を飛んでくれます。
空の上から見る景色はとても綺麗です。
空の上でみんなといると胸の痛みもすーっとやわらぎます。
カイの頭にある考えが浮かび、カイは手紙を書いてリエに差し出しました。
「カイ、どうしたの?」
リエが手紙を受け取って、開いてみると、
「空の色、青い小鳥の翼の色なのかな?」
と書いてありました。
リエは微笑みます。
「わたしもそう思うわ!」
リエの笑顔を見たカイは思いました。
幸せは近くにあるのかな?
カイにとってリエ達が背中に乗せて空を飛んでくれる時間は、身近だけれど、とても幸せな時間です。
リエ達は、カイにとって幸せを運んでくれる青い小鳥でした。
カイには、自分を乗せてリエ達が飛んでくれる空の色が青い小鳥の翼の様に思えたのです。
リエの笑顔も、ただカイのアイディアだけではありませんでした。
カイが自分から自分の考えを伝えられたことが嬉しかったのです。
カイは内気で中々自分の考えや意見を言えません。
リエ達はカイの涙や暗い表情を見るのがいやでした。
自分の考えを伝えられたカイの表情は明るくなっています。
明るいカイを見たリエの胸はワクワクでいっぱいになりました。
「きっとすてきな歌になるわ!」
カイもにっこりと笑いました。
カイとリエは明るい笑顔で歌詞を作りました。
やがて、歌詞を考えたみんなは広場に戻りました。
「みんな、どうだった?」
「歌詞、考えたよ!」
「楽しく歌詞を作れたね!」
「どんな歌詞なの?」
カイはみんなに歌詞を聞いて、大きな紙に歌詞を書いていきます。
川の煌めき、花の美しさと強さ、青空と幸せ…。
すてきな歌詞がいっぱいで、すいすいと鉛筆が動きます。
カイは紙に歌詞を書き終えると、みんなに手紙を書きました。
「みんな、書けたよ」
「ありがとう、カイ!」
「早く歌いたい!」
「でも、明日にしようか?」
辺りはもう日が暮れてきています。
「そうだね、今日は歌詞を覚えよう!」
みんなはカイが歌詞を書いた紙を見て一生懸命に歌詞を覚えました。
やがて、夜になってきました。
「じゃあみんな、そろそろ帰って寝ようか。」
「うん、また明日。」
ルリオとリンド達はそれぞれの家に戻りました。
カイ達は今夜寝る場所を探します。
「みんな、どこで寝る?」
辺りを見ると、やわらかな葉っぱのある木がありました。
「あそこで寝ない?」
「そうしようか。」
カイ達は木のところに行きました。
「やっぱり休むのにぴったりの場所だね。」
カイ達は木の枝に止まりました。
ところで、鳥が木の枝で眠っているとき、木から落ちないのかな?と不思議に思いませんか?でも、ほとんどの鳥の足は、落ちない仕組みになっているのです。
休もうと体の力を抜くと、足首が下がります。すると足首からつながっているそれぞれの足の部分の「健」という部分が引っ張られ、自然と指が閉まります。それで、力を入れなくても指が自動的に枝をしっかりつかむ形になります。なので、眠っていても木から落ちることはありません。
でも、木から落ちる心配はなくても、初めての場所の心配は尽きません。
初めての場所で眠るのはちょっとドキドキです。
カイは少し怖くなってきて、体が強張ってしまいます。
レミがみんなに言いました。
「ねえ、みんな、子守唄でも歌おうか?」
こんな時も歌が1番です。
「子守唄?いいね。」
「お願いしてもいい?」
「うん、じゃあ歌うね。」
レミは子守唄を歌いました。

ゆりかごのうたをカナリアが歌うよ

「本当に…聞いていると…眠く…」
歌を聞いているうちにカイ達は眠くなってきます。

ゆりかごの…つなを…木ね…ずみが…ゆするよ…

歌っているレミもだんだん眠そうに…。
カイ達はあっという間に夢の中です。
やがて、次の日の朝になりました。
目を覚ましたカイはびっくり。
「(あれ、ここは…?)」
カイはハッと思い出しました。
「(そうだ、僕達、青い小鳥を探す旅に出ていたんだ…)」
まだ旅に出て1日では、旅の実感が湧きません。
すると、急に森が恋しくなってきます。
「(森に帰りたいなぁ…森のみんなに会いたいなぁ…)」
まだ1日なのに、長い旅を続けできたように思えました。
いつも過ごしていた場所が、どんなに素敵な場所だったかということは、そこを離れると身を持ってわかります。
朝になって日が昇っても、カイの心は真夜中のように暗くなっていました。
その時、カイの胸にあたたかな光が差しました。
みんなの声が聞こえてきたのです。
「みんな、おはよう、朝だよ!」
朝から元気いっぱいなロキ。
「ロキ、楽しそうだね。」
「新しい場所で、みんなで青い小鳥の歌を歌うのが、すごく楽しみなんだ!」
「ふぁ〜、おはよう、みんな…」
まだまだ眠そうなレミ。
「歌いながら寝たら、子守唄が頭に残っちゃって…」
「レミ、ぐっすり寝てたもんね。」
「でも、レミの子守唄のおかげで眠れたよ。ありがとう。」
大好きなみんなの明るい声を聞くと、暗くなっていたカイの心にも太陽が昇り、カイは自然と笑顔になりました。
そして、新しい場所での初めての1日の始まりに、ワクワクとドキドキが込み上げてきます。
「ねえねえ、早く青い小鳥の歌を歌おうよ!」
「でも、その前に顔を洗ったり朝ごはんを食べたりしないとね。」
「えーっ、早く歌いたいのに!」
「ユウ、ちゃんと朝の準備をしないと、元気に歌えないよ。」
「そっか、朝の準備ををちゃんとしないと、1日元気に過ごせないもんね。」
レミが言いました。
「じゃあ、昨日僕とユウとルリオ君で行った川で顔を洗おうか。」
レミはカイを背中に乗せ、リエ達は川の方に飛び立ちます。
川に着くと、ルリオやリンド達も来ていました。
「おはよう、みんな」
「おはよう、ルリオ君達も顔洗い?」
「そうだよ。この川は顔洗いや水浴びにも使ってるんだ。」
カイ達は川の水で顔を洗いました。
「やっぱり顔を洗うと気分もすっきりするね。」
「顔洗いは、心も洗ってるのかもね。」
ラトが言いました。
「お腹すいたな…木の実がある木とかないかな?」
リンドが言いました。
「じゃあ、この近くに木の実がたくさんなってる木があるから、案内するよ。」
「ありがとう、リンド君。」
ラトはカイを背中に乗せて、リンドに連れられてルリオと木の方に飛び立ちました。
木に着くと、他の鳥達も来ています。
「あっ、カイ君達!」
「昨日、青い小鳥の歌の夢を見たんだ!」
他の鳥達も青い小鳥の歌が楽しみでたまらない様子。
木には、たくさん木の実がなっていました。
「おいしそうな木の実だね。」
「僕達も食べていいの?」
「もちろんだよ。」
カイ達は木の枝にとまりました。
カイは木の実を見つめます。
とても色がきれいでおいしそうな木の実だけれど、森の外でご飯を食べるのは初めてです。
初めてのものを食べるのは、ちょっとドキドキです。
でも、カイは思い切って木の実を一粒食べて見ました。
木の実はやわらかく、甘く、とてもおいしいものでした。
初めて森の外で食べた食べ物です。
初めての場所で、初めて会った相手と食べるご飯は、格別です。
リンドがカイに声をかけました。
「カイくん、木の実はおいしい?」
カイは振り向き、リンドに手紙を書きました。
リンドが手紙を受け取って、開いてみると、
「うん、とってもおいしい!」
と書いてありました。
リンドは手紙を読んでにっこりと笑いました。
「それはよかった…あれ?」
振り向いたカイの顔を見たリンドはちょっとびっくりしているみたい。
「・・・・・?」
カイはリンドが何に驚いているのかわかりません。
そこへリエ達もやって来ました。
リエ達もカイの顔を見ると、
「えっ、カイ、どうしたの?」
リエ達もびっくりです。
カイは何が何だかわかりません。
カイはみんなに手紙を書きました。
「僕、どうかしたのカイ?」
手紙を読んだみんなは言いました。
「カイ、川で自分の顔を見てごらん。」
「・・・・・?」
カイは不思議に思いながらも、川に連れて行ってもらい、水面に映る自分の顔を覗いてみました。
「・・・・・!」
カイは自分の顔に自分でもびっくり。
これはみんなが驚くのも無理はないと思いました。
カイの顔が木の実で汚れてしまっていたのです。
カイはちょっと恥ずかしくなりました。
また、羽毛が汚れると体全体を温める力が落ちやすくなってしまいます。
エズが言いました。
「川で洗えば大丈夫だよ。」
カイが顔を川の水で洗うと、カイの顔は元通り白い羽毛に戻っていました。
「これで大丈夫だね。」
その時、ロキが待ちかねたように言いました。
「じゃあ、朝ごはんを食べたし…」
みんなも笑顔で言います。
「青い小鳥の歌を歌おう!」
他の鳥達も集まって来ました。
「やっと歌えるんだね!」
「1日待ってたんだ!」
リエ達は声を合わせて青い小鳥の歌を歌いました。
歌い出すタイミングは、リエ達の心が合わさったかのように、ぴったり合いました。
リエ達の歌声が響きます。

青い小鳥 みんなに幸せを運んでくれる
川の煌めきみたいに みんなを明るくしてくれる
辛いときも花のように頑張れる元気をくれる
空の色は青い小鳥の翼の色
幸せは近くにあるはずさ
誰もがきっと青い小鳥

カイは歌えないけれど、みんなの歌声を聞いて、とても幸せな気持ちになりました。
ちっとも寂しくなんてありませんでした。
歌い終わったとき、みんなは顔を見合わせ、微笑みました。
みんなの心には、今までに感じたことのない感動と幸せが生まれていました。
歌い終わっても、その感動と幸せは消えませんでした。
それは、カイも同じでした。
みんなはとてもうれしそうに言いました。
「こんなに楽しい合唱は初めてだよ!」
「今まで歌った中で1番すてきな歌だわ!」
みんなの笑顔が輝きます。
エズが言いました。
「ユウ、レミ、リンドくん、「川の煌めきみたいに みんなを明るくしてくれる」っていう歌詞、すごくすてきだね!青い小鳥の歌にぴったりだよ!」
いつもクールに見えるエズの川の煌めきのようなとびきりの笑顔に、ユウ、レミ、リンドもにっこり。
ユウが言いました。
「ラト、ロキ、エズ、ルリオくん、「辛いときも花のように頑張れる元気をくれる」、花って頑張ってきれいに咲いてる、花って強いんだね。花は軽くて薄いけど、すごい力があるんだね。」
ユウは新しい発見に新しい冒険を想像してワクワク。
ルリオとリンドが言いました。
「カイくんとリエちゃんが考えた、誰もがきっと青い小鳥、っていう歌詞、心に染みたな。」
「幸せは近くにあるはずさって、すごく大切なことだね。空の色はきっと青い小鳥の羽の色だね。」
出会ったばかりですが、ルリオとリンドはとてもすてきな笑顔をみせました。
そして、リエはカイを真っ直ぐ見つめて、言いました。
「歌詞をすぐに覚えて今日みんなで歌えたのは、カイが歌詞を紙に書いてくれたおかげよ。ありがとう。」
カイはリエの言葉が真っ直ぐ心に染み込んできました。
話せない、飛べない自分を頼りにして、「ありがとう」って言ってくれるなんて…。
カイはうれしくて、うれしくて、涙が出そうになりました。
カイはにっこりと笑い、手紙を書きました。
「僕こそ、ありがとう」
手紙を読んだリエ達も微笑みました。
他の鳥達が言いました。
「ねえ、もっともっといろんな歌をみんなで歌ってみよう!」
「わたし、こんな歌、知ってるよ!」
カイ達はみんなでいろんな歌を歌いました。
出会ったばかりですが、緊張はどこにもありません。
そして、カイの心にも寂しいなんて気持ちは少しもありませんでした。
みんなの心が1つになった、あたたかい優しい歌声が響いていたからです。
ルリオが言いました。
「こんなに仲良くなれたの、青い小鳥の歌のおかげだね。」
リンドが言いました。
「リエちゃんのアイディアのおかげだよ。ありがとう!」
リエは言いました。
「ううん、みんなが歌詞を考えて、気持ちを込めて歌ってくれたおかげよ。ありがとう!」
カイ達はみんなにも「ありがとう」を伝えるリエがとてもすてきに思えました。
「みんなが仲良くなれたのはみんなのおかげなのよ。」
リエの言葉に、カイ達は心が震えました。
カイ達が仲良くなれたのは、みんなが1つのことに力を合わせて、心を込めて取り組んだからでした。
リエの言葉通り、お互いの笑顔は、お互いが作っていくものです。
そして、みんなとの繋がり、みんなで作った青い小鳥の歌を通してカイの胸には新しい気持ちが生まれていました。
新しい世界で出会った、新しい仲間との心のぬくもりでした。
そして、初めてのものを怖がってばかりではいけないことでした。
初めての相手はお互いに緊張するけれど、リエのように一歩踏み出すと、仲良くなれます。
森でいじめを受けていたカイは、新しい世界で、新しい仲間と過ごして、新しい自分になったようでした。
初めは住み慣れた森を離れるのはとても寂しいと思っていましたが、慣れた場所を離れることによって、自分の世界が広がることもあります。
明るい表情をみせるカイを見て、リエ達、ルリオやリンド達もうれしくなりました。
青い小鳥を見つけるのはまだまだ先になりそうだけど、カイ達は青い小鳥と同じくらいすてきなものを見つけたのでした。

第3話「心を込めて」
新しい仲間、ルリオやリンド達とキズナを結び、再び旅立ったカイ達。
新しい仲間ができたのがうれしくて、歌いながら飛びます。
ラトが言いました。
「ずいぶん飛んだし、ちょっと休んでもいいかな?」
「うん、そうしようか。」
カイ達は花がたくさん咲いている木の枝にとまりました。
ロキは好奇心いっぱいの目で木を見回します。
「この木の花もきれいだね。」
「森の外に出ると、いろんな発見があるね。」
初めは不安そうだったレミも楽しそう。
声を出しておしゃべりするみんなを見ていたカイは思いました。
「(声を出して話すってどんな感じなのかな?」
カイは声を出して話すということが、どんなものなのか知りません。
声が出せないカイは、手紙で気持ちを伝えています。
声と手紙は大違いです。
声は話したい、と思ったときにすぐに出せるけれど、手紙は紙を用意して書かなければなりません。
相手の目を見て、声を出して話すことで、自分の気持ちはよく伝わりますが、文字だけの手紙では、自分の気持ちや伝えたいことがしっかり伝わらないこともあります。
そう考えていると、急に不安になってきます。
カイは手紙を書いて、ドキドキしながらみんなに差し出しました。
「カイ、なあに?」
みんなが手紙を受け取って、開いてみると、
「僕が手紙でお話するの、気になったりしない?」
みんなは首を横に振りました。
ラトはカイに言いました。
「手紙もすてきだよ。カイの心がこもっているからね。」
ラトの言葉を聞いたカイは心の中で言いました。
「(心がこもってる?)」
カイはラトに手紙を書きました。
「心がこもってるって、どういうこと?」
手紙を読んだラトは言いました。
「僕、歌のことでルージャさんにアドバイスを受けたことがあるんだ。」
「えっ?」
いろんなことに詳しいラトが、アドバイスを受けるなんてカイ達はちょっとびっくりです。
「どんなアドバイスだったの?」
ラトは話し始めました。
みんなで合唱をすることになり、ラトが1人で練習していたときのことでした。
ラトは上手に歌いたくて、一生懸命練習しました。
でも、しばらく練習しているうちに疲れてきて、少し休憩することにしました。
「はぁ、なんだか疲れちゃったな…。うまく歌えるといいけど…。」
そのとき、ルージャがラトに声をかけました。
「ラト」
「あっ、ルージャさん、昼間にどうしたんですか?」
「合唱をするみたいだから、聞きたいと思ったんだ。」
「そうなんですか。僕、練習していて、ちょっと今、休んでいて…。」
ルージャはラトに聞きました。
「ラト、練習は楽しめたかい?」
その質問は真っ直ぐにラトの心にささりました。
ラトはすぐには 答えられませんでした。
ラトは練習していたときのことを思い出してみました。
歌詞の発音や姿勢も意識して…。
でも、「楽しい」という気持ちは思い当たりませんでした。
ラトははっと気づきました。
ラトは上手に歌おうとして、楽しむことを忘れていました。
歌い手が楽しんでいない歌は、聞いている方も楽しくありません。
それは、いい合唱ではありません。
ラトは素直な気持ちを答えました。
「楽しめていなかったです…。」
ラトの答えを聞いたルージャは言いました。
「ラト、大切なことは、上手にやることじゃなくて、心を込めるだよ。」
「心を込めて?」
「そう、聞いている人の心を動かしたい、と気持ちを込めて歌えば、いい合唱ができるはずだよ。」
「…そうだったんだ…。」
ラトは言いました。
「僕、上手に歌うことにとらわれて、心を込めること、忘れていました…ルージャさん、ありがとうございます!」
それからラトは、心を込めて一生懸命練習しました。
1日の練習が終わって、夜、眠りにつくとき、練習が楽しみで、早く明日にならないかなぁ、と思うようになりました。
やがて、合唱をする当日がやってきました。
合唱をする鳥達が集まります。
「僕、今日の合唱、すごく楽しみにしてたんだ!」
「わたしもいっぱい練習したよ!」
たくさんの鳥達が聞きに来ていました。
ラトは聞きに来てくれた鳥たちの中からルージャを見つけました。
「あっ、ルージャさんも来てくれたんだ。」
少し緊張しますが、ルージャの言葉を思い出すと、勇気が湧いてきました。
鳥達は位置につきます。
「それじゃあ、始めるよ。」
指揮の鳥が合図をして、鳥達は歌い出しました。

ありがとうっていったら みんながわらってる
そのかおがうれしくて なんどもありがとう

ラトは聞いている人達の心を動かしたい、と心を込めて歌いました。
聞いている鳥達の瞳が輝きます。
歌が上手か、ではなく、みんな、とても心があたたかくなったのです。

ありがとうのはながさくよ きみのまちにもほらいつか
ありがとうのはながさくよ みんながうたってるよ

歌い終わると、合唱をした鳥達も、聞いていた鳥達も輝くような笑顔になりました。
合唱が終わった後、ラトの胸に真っ先に生まれたのは、「楽しい」という気持ちでした。
合唱を聞いていた鳥達は、合唱をした鳥達の元に行って楽しそうに話します。
「すごくきれいな歌声だったよ!」
「みんなで歌ったからだよ。」
「すてきな歌を聞かせてくれて、ありがとう!」
「わたし達の方こそ、聞いてくれて、ありがとう!」
ラトの元にはルージャが来ました。
「素晴らしい合唱だったよ。歌は楽しかったかい?」
ラトはとびきりの笑顔で答えました。
「はい、すごく楽しかったです!」
とびきりの笑顔のラトを見てルージャは言いました。
「よかった。心を込めた楽しい合唱、みんなの心が動いたよ。」
ラトは胸が熱くなりました。
「ルージャさんが心を込めること、楽しむことを教えてくれたおかげです!ありがとうございます!」
ルージャは熱を込めて言いました。
「ラトが心を込めること、楽しむことを考えて、したからだよ。心を込めて歌ったから、みんなの心も動いたんだ。心を込めることは、みんなの心を繋ぐことだからね。」
「…はい!」
この出来事があってから、ラトは歌うとき、心を込めること、楽しむことをいつも心がけるようになったのでした。
ラトは話し終わると、カイに言いました。
「だから、カイの手紙も、カイが心を込めてカイているから、声と変わらない。カイの気持ちがしっかり伝わるし、みんなの心が動いてる、みんなの心を繋いでるよ。」
ラトの言葉を聞くと、不安に閉じ込められて、冷たくなっていたカイの胸があたたかい光に包まれました。
カイは、手紙で気持ちを伝えていることに、こんなことを言われたことはありませんでした。
カイは、手紙で気持ちを伝えていることを、コルウォやイヴン達に、
「文字で話すなんておかしい」
「書き終わるのを待っているのがいやだ」
と言われていました。
それを「声と変わらない」と言ってくれるなんて、夢のようでした。
ラトの心のこもった言葉に、カイの心は大きく動きました。
カイはラトに心を込めて手紙を書きました。
「ラト、ありがとう。手紙でちゃんと気持ちがみんなに伝わってるって僕に伝えてくれて。不安を取り除いてくれて…。そして、心を込めること、僕も心がけるよ。」
ラトは手紙を読んでにっこりと笑いました。
「よかったよ、 カイ。」
エズが言いました。
「心を込めることって、身近なことだけど、歌以外のことでもとても大切なことだね。つい上手にやろうって思っちゃうけど、気持ちがこもっていなければ、それはいいものじゃない、僕も忘れないようにしていこうと思う。」
みんなも頷きます。
「それじゃあ、そろそろ出発しようか。」
ロキは元気に言いました。
「じゃあ、僕たちも心を込めて歌ってみようよ!」
「まずは実践ってところだね。」
「うん、歌おう!」
リエ達は心を込めて歌いました。
心のこもった、みんなの心を動かす、とても美しい歌声でした。
歌えないカイも、とても楽しい時間でした。
しばらく飛んでいくと、草むらに1羽の小鳥がいました。
その小鳥は黒と白、グレーの羽毛を持ち、背中は少し緑色をしています。胸からお腹にかけてネクタイのような模様がありました。
「あっ、あそこに鳥さんがいる。」
「初めて見る鳥さんだね。」
「でも、なんだか様子が変よ…」
その小鳥はなんだか焦っているようです。
遊んでいるようには見えません。
その様子を見て、カイ達も胸が苦しくなります。
「大丈夫かな?」
「声をかけてみよう。」
リエ達はその鳥の近くに舞い降りました。
「こんにちは、どうかしましたか?」
その小鳥は驚きつつも、言いました。
「私は薬草を探しているんだ。」
「薬草?」
「ああ、子供が熱を出してしまってね… 」
「そうなんですか…」
カイは手紙を書いて小鳥に渡しました。
「僕たちも探します。」
リエ達も大きくうなずきます。
「いいのかい?」
「もちろんですよ!」
「ありがとう、申し遅れたね、私はシジュウカラのコーゼ。」
リエ達もそれぞれ自己紹介をしました。
カイは手紙を書きました。
もうカイの心に不安はありません。
カイは手紙を書くとき、いつも少し暗い表情になっていたけれど、今はもう暗くなりません。
そんなカイを見て、リエ達もうれしくなりました。
コーゼが手紙を読むと、
「僕の名前はカイです。僕は声が出せないから、手紙で気持ちを伝えているんです。」
と書いてありました。
最初からカイが手紙でお話することを伝えれば、相手に不安を与えません。
そして、カイが自分から声が出せないことを伝えられるようになったのも大きな成長でした。
カイは、もう自分が声が出せないことを、恥ずかしい、悲しい、悔しい、と思わなくなりました。
レミが聞きました。
「その薬草はどんな草なんですか?」
コーゼは答えます。
「ヘビイチゴだよ。」
「ヘビイチゴ?」
「赤くて丸い小さなつぶつぶがある実だよ。草むらに生えていることが多いんだ。」
「わかりました。」
カイ達はヘビイチゴを探し始めました。
エズは以前自分が翼にケガをしたとき、ラトが傷に効く薬草を見つけて来てくれて、みんなが薬にして持ってきてくれたことがありました。
エズはその時のことを思い出し、シジュウカラの子供の痛みを少しでも早く取り除きたいと思い、一生懸命ヘビイチゴを探しました。
カイ達も頑張ってヘビイチゴを探しますが、なかなか見つかりません。
「みんな、あった?」
「ないなぁ…。」
みんなはだんだん焦ってきました。
そんな中、ヘビイチゴを探すのに夢中になっていたカイは、小鳥の背丈を超えるほど背の高い植物がたくさん生えている草藪を見つけました。
草藪を見て、カイは思いました。
「(あの草藪にはないかな?)」
カイは草藪の方に入って行きます。
カイは必死にヘビイチゴを探しますが、あちこちを探しても、見つかりません。
カイは心の中で言いました。
「(熱を出した時ってつらいだろうなぁ…早く見つけないと…。)」
それからしばらく経ち、辺りが少し暗くなってきました。
それでも、カイはヘビイチゴも探し続けます。
すると、カイの目に赤い色が飛び込んできました。
カイははっとしました。
「(あっ、あれは…)」
カイが赤い色が見えた方に行ってみると、赤くて丸い小さなつぶつぶがある実、ヘビイチゴです。
カイは心の中で言いました。
「(よかった、ヘビイチゴだ!)」
後はヘビイチゴを持ってみんなの元に戻るだけ…ですが、辺りを見回したカイは驚きました。
「(あれ、みんなはどこ?)」
どうやら、ヘビイチゴを探しているうちに、みんなからはぐれてしまったようです。
「(どうしよう…)」
空を飛べないカイは、みんなのところに飛んで戻ることができません。
探し物は見つけることができたけれど、今度はカイが探し物になってしまいました。
一方、リエ達の方では、
「みんな、ヘビイチゴは見つかった?」
「こっちはだめ…そっちはどう?」
「僕も方も見つからなかった…」
コーゼが言いました。
「みんな、暗くなってきたし、そろそろ休んで。」
「えっ、でも…」
「君たちも疲れているだろうし…一緒に探してくれてありがとう。」
「いや、でも、熱が出ているときに、放って置けないですよ!」
「大丈夫なのかい?」
「はい!」
そのとき、リエが言いました。
「あら、カイは?」
周囲を見ても、カイが見当たりません。
「カイ、どこに行ったの?」
「カイを探さないと!」
みんなは空へ飛び立ちます。
一方、カイは考えます。
「(見つけてもらうには、ここから動かないほうがいいかな…どうすればみんなに、「ここにいるよ」って伝えることができるかな…)」
そのとき、カイはいつも持っている、手紙を書くための道具を入れたポーチが目に入りました。
「(僕がいつも使っている手紙でも、みんなに気持ちや物事を伝えられる…)」
カイはポーチから便箋、封筒、鉛筆を取り出しました。
「(僕の居場所を伝えるには…)」
カイが辺りを見回すと、近くには、白い花が1輪咲いていました。
カイは「ヘビイチゴをシジュウカラさんに届けて、熱を治したい」と心を込めて手紙を書いて、風に乗せて飛ばしました。
風まかせですから、みんなのところに届くかはわかりません。
「(みんなに届くといいな…)」
風に乗った手紙は、ふわふわと宙を舞います。
しばらくすると、風はだんだんと弱まり、手紙は木の枝の隙間に挟まりました。
それはまるで、誰かが見つけるのを待っているようでした。
その頃、リエ達は手分けしてカイを探していました。
「カイ、ケガでもしてないといいんだけど…」
そのとき、リエは木の枝に何か白いものを見つけました。
「カイ!?」
リエはその木の枝に飛んで行きました。
近づいてみると、それはカイではなく、一通の手紙でした。
でも、リエはピンときました。
「これはきっとカイの手紙ね…」
リエは手紙を開いてみました。
手紙には、カイの字でこう書いてありました。
「ヘビイチゴを見つけたよ。でも、みんなからはぐれちゃって…草藪の白い花の近くにいるよ。」
リエはみんなのところに行って、このことを知らせました。
「カイ、ヘビイチゴを見つけたんだね!」
「すぐ迎えに行こう!」
リエ達はカイを迎えに飛び立ちました。
「カイ、待っていてね。」
その頃、カイは草藪でヘビイチゴを持って、リエ達を待っていました。
手紙がリエ達に届いたかはカイにはわかりません。
辺りはさらに暗く、少し寒くなってきます。
カイはだんだん怖くなってきました。
初めての場所で、ひとりぼっちです。
まだ旅に出て数日で、右も左もわかりません。
でも、みんなのことを考えると、怖い気持ちはすーっと消えていきました。
みんなが来ないのではないか、という心配は、少しもありませんでした。
みんなはいつでも、カイのそばにいてくれて、カイの心をあたためてくれます。
カイは心からみんなを信じていました。
みんなは必ず来てくれる、そう思っていたのです。
やがて、空の上のリエ達は、草藪の方に入りました。
リエ達は白い花を探します。
「白い花はどこかな…?」
「カイ、もうすぐ着くからね。」
草藪の中を注意深く見ていくと、雲のように真っ白のやわらかな花びらを持った、一輪の花が見えました。
「あっ、白い花!」
リエ達は白い花の方に飛んで行きました。
カイの元に、空から聞き慣れた優しい声が降ってきました。
「カイ、迎えに来たよ」
「大丈夫だった?」
カイはみんなの顔が見えると、ホッとして、あたたかい涙が出てきました。
カイはみんなに「『ごめんなさい』と『ありがとう』」と心を込めて手紙を書きました。
みんなが手紙を受け取って、開いてみると、
「僕は大丈夫。みんな、心配かけてごめんなさい。それと、探しに来てくれて、ありがとう!」
と書いてありました。
みんなは優しく笑いました。
「カイが無事で本当によかった。」
コーゼが言いました。
「カイ君、ヘビイチゴを見つけてくれてありがとう。私の巣に持って行こう。」
リエはカイを背中に乗せて、リエ達はコーゼに連れられてコーゼの巣に向かって飛び立ちました。
カイはヘビイチゴをしっかりと抱えています。
カイが下を覗くと、草藪も、花も、木も、みんな小さく見えます。
いつもは胸がいっぱいになるけれど、熱を出しているシジュウカラのヒナのことを思うと、ヘビイチゴを落としてしまわないか少し不安になってきて、カイはヘビイチゴをもう一度抱え直しました。
やがて、コーゼの巣に着きました。
コーゼの巣は、木の空洞にありました。
中では、メスのシジュウカラが待っていました。
「ただいま」
「あら、お帰りなさい。この子達は…?」
リエ達はそれぞれ自己紹介をしました。
カイは手紙を書きました。
「僕の名前はカイです。僕は声が出せないから、手紙で気持ちを伝えているんです。」
メスのシジュウカラは言いました。
「わたしはマイよ。」
コーゼはマイに言いました。
「カイ君達が一緒にヘビイチゴを探してくれたんだ。」
カイはヘビイチゴを差し出しました。
「ありがとう、みんな。よかったわ。」
マイはヘビイチゴを薬にして、シジュウカラのヒナに飲ませました。
シジュウカラのヒナはすやすや眠っています。
疲れていたカイ達もだんだん眠くなってきました。
コーゼとマイが言いました。
「みんな、本当に助かったよ。ありがとう。」
「みんなも疲れているでしょう。ゆっくり休んでね。」

カイ達はコーゼの巣のそばの木にとまって休むことにしました。

ゆりかごの上に びわのみがゆれるよ

レミの優しい歌声がみんなを眠りに誘います。
カイ達はシジュウカラのヒナが元気になりますように、と願い、眠りにつきました。
翌日、カイ君は再びコーゼの巣を訪れました。
すると、
「みんな、おはよう!」
シジュウカラのヒナが飛び出してきました。
シジュウカラのヒナはすっかり元気です。
「よかった、元気になったんだね。」
「うん、今日の朝起きたら熱も下がってたんだ!」
カイ達はこんなにうれしいことはない、と思いました。
コーゼとマイは言いました。
「カイ君達のおかげだよ、本当にありがとう。」
「みんなには何とお礼を言ったらいいか…。」
「元気になってくれてよかったです。」
シジュウカラのヒナはカイ達に言いました。
「君達がヘビイチゴを見つけてくれたんだね!ありがとう!僕はツピだよ!君達の名前は?」
リエ達はそれぞれ自己紹介をしました。
カイは手紙を書きました。
「僕の名前はカイ。僕は声が出せないから、手紙で気持ちを伝えているんだ。」
ツピは何て思うかな、とカイはドキドキしました。
でも、ツピは、カイが声が出せないことを、不思議そうにしませんでした。
カイは思いました。
まだ知らないことが多い小さな子は、周りと違う子を「まだ自分が知らなかったこと」として受け入れることができるのかもしれません。
カイがもし、自分がまわりと違うことをどう思われるか怖がって隠していると、ツピは「カイ君はどうして話さないのかな?」と疑問に思うでしょう。
その疑問が大きくなると、受けられるのが難しくなってしまうこともあります。
自分が周りと違うことを相手に伝えるのは、怖いけれど、早く伝えた方が、いい未来を作れるかもしれない。
カイはそう思いました。
そして、カイはツピに手紙を書きました。
ツピが手紙を受け取って、開いてみると、
「ツピくんはどんな歌が好きなの?」
とカイてありました。
鳥達はみんな、歌が大好き。
カイも歌えないけれど、みんなと同じように歌は大好きです。
カイは鳥達みんなが好きな歌の時間を過ごすことで、みんなの笑顔を見たかったのです。
ツピは明るく答えました。
「僕はね、「心から心へ」っていう歌が好きなんだ!」
「「心から心へ」?」
「どんな歌なの?ちょっと歌ってもらってもいいかな?」
「うん!」
ツピは歌いました。

きみの手とぼくの手を
かたくにぎり わけあおう
僕たちの心のぬくもりを

「とってもすてきな歌だね!」
「僕たちも歌ってみたいな。僕たちにも教えてくれない?」
「もちろんだよ!」
カイ達はツピから「心から心へ」を教わりました。
「心から心へ」はみんなの心のぬくもりを分け合う歌でした。
カイは、ラトの言葉を思い出しました。
「カイの手紙も、カイが心を込めてカイているから、声と変わらない。カイの気持ちがしっかり伝わるし、みんなの心が動いてる、みんなの心を繋いでるよ。」」
ルージャがラト達に教え、ラトがカイに伝えてくれたことが教えてくれたことがこもっている歌でした。
歌うことはできないけれど、カイは胸がドキドキします。
その様子を、コーゼとマイは優しく見ていました。
みんなが歌を覚えると、ラトが言いました。
「ねえ、みんなで「心から心へ」を歌ってみようよ!」
「うん、歌おう!」
ツピはコーゼとマイに言いました。
「ねえ、お父さんとお母さんも一緒に歌おうよ!」
「ありがとう、ツピ。一緒に歌うよ。」
「みんなで歌いましょう。」
「お父さん、お母さん、ありがとう。みんなで歌えるなんて、すごくうれしいよ!でも…」
ツピはちょっと不安そう。
「どうしたの、ツピ君?」
ラトが聞くと、ツピは、
「上手に歌えるかな…?」
そんなツピを見たカイは心を込めて手紙をカイて、ツピに渡しました。
ツピが手紙を受け取って、開いてみると、
「大丈夫。大切なのは、心を込めることだよ。ツピ君はどんな歌にしたい?」
ツピは答えました。
「えっと…みんなの心のぬくもりを分け合う、明るい歌かな…?」
カイはにっこりとうなずき、手紙をカイて、ツピに渡しました。
「そして、楽しむことも忘れないでね。それじゃあ、心を込めて、歌ってみよう!」
ツピは自分は歌えないけれど、明るい笑顔をみせるカイに自分も笑顔になりました。
「うん、歌おう!」
リエ達とツピとコーゼとマイは、「みんなの心のぬくもりを分け合う、明るい歌にしたい」と心を込めて「心から心へ」を歌いました。

きみの手とぼくの手を
かたくにぎり わけあおう
僕たちの心のぬくもりを

ほら ごらん 風も雲も
きみをみてる
ほら ごらん ひとりじゃない
みんな ほほえんでいる

きみの手とぼくの手を
かたくにぎり わけあおう
僕たちの心のぬくもりを

聞いているだけで、心があたたまる、とても明るい歌声でした。
その歌声は、カイの心をあたため、明るい光で包みました。
ツピ達はとても楽しそうに歌っています。
その様子を見て、カイは明るく微笑みました。
歌い終わったとき、みんなの心はぬくもりで満たされていました。
カイはみんなに手紙を書きました。
「心があたたまる、明るい歌だったよ!」
ツピはにっこりしました。
「ありがとう!みんなで歌うの、すごく楽しかったよ!」
「楽しめたなら、よかった。」
「風も雲も、僕らを見ていてくれるんだね。」
すると、そこに、他の鳥達の声がしました。
「素晴らしい歌だよ!」
「なんて言う歌なの?わたし達も歌いたい!」
カイたちのそばに、他の鳥達も集まって来ていました。
リエ達とツピとコーゼとマイが心を込めたとおり、みんなの歌声は、みんなの心のぬくもりを分け合い、明るくしていたのです。
「うん、みんなで歌おう!」
ツピはとってもうれしそうです。
ツピは他の鳥達に言いました。
「みんな、あのね、ここにいるカイ君が教えてくれたんだけど、大切なのは、上手に歌うことじゃなくて、心を込めて歌うことだよ。それと、思いっきり楽しんでね。」
「心を込めることね、わかったわ。」
「楽しむことも大事なんだね。」
ツピが他の鳥達にも心を込めること、楽しむことの大切さを伝えると、みんなの心がさらに強くつながったようでした。
リエ達とツピとコーゼとマイは、他の鳥達とも、心を込めて「心から心へ」を歌いました。
心を込めた通り、歌詞の通り、みんなは心のぬくもりを分け合いました。
風も雲も、カイ達を優しく見守っているようでした。
歌えないカイも、1人ではありません。
みんな、微笑んでいました。
やがて、歌い終わった後、ツピはカイにとてもすてきな笑顔で言いました。
「カイ君、心を込めること、楽しむことの大切さを教えてくれてありがとう!」
カイはツピに手紙を書きました。
「僕達が住んでいた森にいた、賢者のルージャさんが僕達に教えてくれたんだ。」
手紙を読んだツピは言いました。
「ルージャさんってすごいんだね。カイ君達は森から来たの?」
カイはうなずきました。
リエが言いました。
「わたし達は伝説の幸せの青い小鳥を探して旅をしているの。」
ユウが言いました。
「最近バードワールドが荒れているみたいで…青い小鳥にしか歌えない魔法の歌があれば、バードワールドを救えるんだって。」
「そうなんだ…青い小鳥、魔法の歌…?」
他の鳥達も、
「バードワールドを救う方法があったの?」
「青い小鳥って、どこにいるのかな?」
まだ小さなツピにとっては、大きな世界を救う大きな力を持つ青い小鳥が言葉では表現できない、とても不思議な存在に思えました。
青い小鳥は誰も見たことがないし、どこにいるのかもわかりません。
青い小鳥を見つけるのは、ずっとずっと先かもしれません。
それに、まさに今、バードワールドは荒れているのです。
もし青い小鳥が見つからなかったら…。
繋がっているみんなの心が曇り始めたとき、カイは、曇っていたみんなの心を晴らした、あの歌を思い出しました。
青い小鳥の歌です。
初めての相手を前にして、お互いに少し緊張していて、ちょっと暗いような空気になっていたとき、みんなでこの歌を作り、歌うと、みんなの心は感動と幸せに包まれ、すぐに打ち解けることができました。
カイはツピ達にも青い小鳥の歌を歌ってみよう、と誘おうと考えましたが、やはり少しドキドキします。
そのとき、カイはリエのことを思い出しました。
リエは自分もドキドキしていたけれど、思い切ってみんなで歌を歌うことを提案しました。
誰かが少しドキドキを破れば、みんなの気持ちは明るくなります。
カイは思い切って、みんなに手紙を書きました。
「みんな、僕達、青い小鳥の歌を作ったんだ。みんなで歌ってみない?」
すると、少し強張っていたみんなの顔が、明るい微笑みで包まれました。
「カイ君達が作ったの?すごい!」
ツピは興味津々です。
「青い小鳥の歌?」
「どんな歌なの?教えて!」
他の鳥達もワクワクでいっぱい。
みんなが笑顔になって、カイもうれしくなりました。
これからは、初めての鳥に会うときも、思い切って踏み出してみよう、と思いました。
カイ達はツピ達に青い小鳥の歌を教えました。
「すてきな歌詞!」
「よく考えたね。」
「ここに来る前に会ったスズメのルリオ君、ムクドリのリンド君達と一緒に作ったんだ。」
「心を込めて歌おう!」
「みんな、どんなふうに心を込めようか?」
「うーん、どうしようかな…?」
一羽の鳥がカイに聞きました。
「どう心を込めるのかって、どう決めればいいのかな?」
カイは答えに悩みました。
どう心を込めるのか、深くは考えていなかったし、そのことを聞かれたことはありませんでした。
カイ達はリエ達、ツピ、コーゼ、マイに手紙を書きました。
「どう心を込めるのかって、どう決めればいいのかなって聞かれたんだけど、…どう答えればいいのかな?」
リエ達、ツピ、コーゼ、マイも答えに困ってしまいました。
そのとき、ツピが言いました。
「心を込めるって、心はどんなことを思ってもおかしくないから、どう心を込めるのかってことに、ルールはないのかな?」
ツピの純粋な言葉は真っ直ぐにカイ達の心に入り込み、悩んでいたカイ達の心に光を灯しました。
カイ達の中に1つの答えが浮かびました。
でも、カイ達はじぶんたちのくちではいわず、カイは手紙を書き、その手紙は、ピに渡されました。
「えっ、僕?」
手紙にはこうカイてありました。
「ツピ君が出したくれた答えだよ。ツピがみんなに教えて。」
ツピはうなずきます。
「うん!」
ツピは答えました。
「こうしなきゃいけないっていうルールはないよ。心はどんなことを思ってもおかしくないから、嘘はつかなくていい。自分が素直な気持ちを込めればいいんじゃないかな?」
みんなも大きくうなずきます。
他の鳥が言いました。
「ねえ、僕が思ったんだけど、僕らの住んでいる世界が早く元の姿を取り戻せるように、「青い小鳥が見つかりますように」って心を込めない?」
みんなはにっこり。
コーゼとマイもうれしそうです。
「そうすれば、きっと見つかるよ!」
「みんなで歌いましょう!」
リエ達は「青い小鳥が見つかりますように」と心を込めて青い小鳥の歌を歌いました。

青い小鳥 みんなに幸せを運んでくれる
川の煌めきみたいに みんなを明るくしてくれる
辛いときも花のように頑張れる元気をくれる
空の色は青い小鳥の翼の色
幸せは近くにあるはずさ
誰もがきっと青い小鳥

歌うと、もやもやしていた気持ちは消えていき、みんなの胸には希望が生まれていました。
みんなの悲しい気持ちや不安を和らげ、希望を生み出すとても明るい歌声でした。
歌は、みんなの達の心に強く、明るく、入ってきました。
リエ達は、歌っていると、身が引き締まりました。
みんなの暮らすこの世界を救うために、自分達の住み慣れた地を離れ、旅立ちました。
でも、青い小鳥は見つかるのか、それは誰にもわかりません。
でも、だからといって、「どうせできない」「頑張るなんて無駄だ」と嘆いても、何も解決しない。
希望を持って踏み出せば、それは誰かを救う。
自分たちにできるのか、わからないけれど、みんなの暮らすこの世界を救うために…。
カイも歌声を聞いていると、胸が熱くなりました。
できないことがあっても、みんなのために何かすることはできる。
ほんの少し勇気を出すだけで、新しい世界や新しい自分が見えてくる。
自分にできることがあれば、それに力を尽くす。
みんなの笑顔、大切な場所を取り戻すために…。
そして、ツピ達の心にも、勇気が芽生えました。
いらない人は誰もいません。
日常の何気ない行動が誰かのためになっていることもあります。
誰もが誰かの心をあたためることができます。
その方法に決まりはない。
誰もが誰かの力になっている…。
希望のこもったみんなの歌声は、カイ達の背中を押してくれました。
歌い終わった後、みんなは迷いが吹っ切れたような顔をしていました。 
長くはない時間なのに、歌うと、みんなは大きく変わったようでした。
カイはみんなに手紙を書きました。
「勇気や希望があれば、世界だって、救えるね。」
カイの字はいつもより熱がこもっているようでした。
リエも答えます。
「ええ、必ず。」
コーゼとマイも、
「世界を救う方法は、近くにあったんだね。」
「希望や勇気、忘れないわ。」
他の鳥達も、
「落ち込んでいても、何も始まらない。すてきなことが見えなくなるだけだもんね。」
「一歩踏み出すだけで、自分の世界は変わる。少し勇気を出すだけで変わるのね。」
みんなが心を込めて歌った青い小鳥の歌は、みんなの心に勇気と希望の光を灯していました。
ツピはカイ達に満面の笑顔で言いました。
「青い小鳥の歌は、歌うだけで、僕達に元気、勇気、希望をくれるね。僕、青い小鳥の歌、大好きだよ!」
カイ達もとびきりの笑顔になりました。
ツピは言いました。
「あのね、僕、カイ君達が旅をしてるって聞いたとき、自分の家を離れるなんて、寂しいのかなって思ってたけど、それでもこの世界のために頑張れる秘密は、元気や勇気なんだね。僕達も自分にできることがないか探してみるよ。みんなでこの世界を救いたいから。」
カイはツピに手紙を書きました。
「ありがとう、ツピ君。」
カイ達も、心のどこかには、森から離れている寂しさがありました。
ツピの言葉を聞くと、元気と勇気が湧いてきて、寂しさの胸の痛みもスーッと消えていきました。
カイはみんなに「青い小鳥は必ず見つかる」と心を込めて手紙を書きました。
「みんなで力を合わせれば、必ず青い小鳥は見つかるよ!それに、こんなに元気になれたのは、心を込めて歌ったからだね。心を込めて歌えば、心だって変わる。青い小鳥は必ず見つかる。心をこめるって、本当にすてきだよ!」
みんなも力強くうなずきました。
カイ達は、勇気と希望を胸に、青い小鳥を見つけ、バードワールドを救おうと改めて決意したのでした。

第4話「ウソの秘密」
ツピやコーゼ、マイ達とキズナを結び、再び旅立ったカイ達。
しばらく飛んでいくと、木の枝に一羽の小鳥が見えました。
その小鳥は、スズメのルリオよりも一回り大きく、灰色と黒の羽毛を持ち、頬から喉にかけて赤色がありました。
「あの鳥さんは誰かな?」
「青い小鳥について何か知ってるか、聞いてみよう。」
リエ達はその小鳥のそばに舞い降り、声をかけました。
「こんにちは、あなたは何の鳥ですか?」
その鳥はちょっとビクッとしたように答えました。
「僕は…ファクトっていう鳥のフィルユ。」
「フィルユ君っていうんだね。ファクトっていう鳥さんも初めて聞いたなぁ。」
リエ達はそれぞれ自己紹介をしました。
カイは手紙を書きました。
「僕の名前はカイ。僕は声が出せないから、手紙で気持ちを伝えているんだ。」
リエは言いました。
「わたし達は伝説の幸せの青い小鳥を探して旅をしているの。」
エズは言いました。
「最近バードワールドが荒れてしまっていて…青い小鳥にしか歌えない魔法の歌があれば、バードワールドを救えるらしいんだ。」
それを聞いたフィルユは言いました。
「ぼ、僕…青い小鳥がどこにいるか、知ってるよ!」
「えっ!?」
カイ達はこんなに驚いたことはありません。
森を出れば、すぐに青い小鳥がどこにいるか知っている鳥がいたなんて…。
そして、フィルユが青い小鳥の居場所を知っていると聞いて、カイ達はとても安心し、うれしく思いました。
レミは言いました。
「よかった。青い小鳥の居場所を知ってる鳥さんがいたなんて。フィルユ君、青い小鳥はどこにいるの?」
フィルユは少し小さく言いました。
「えっと、そうだなぁ…僕について来て!」
フィルユはそう言うと飛び立ちます。
リエはカイを乗せ、リエ達も飛び立ちました。
リエ達は飛びながら話します。
「青い小鳥の居場所を知ってるなんて、フィルユ君はすごいなあ。」
「青い小鳥に会えるなんて、ドキドキするよ!」
「魔法の歌も聞けるのかな?青い小鳥ってとってもきれいな声なんだろうな…。」
リエ達は会話が弾み、羽ばたきにも力が入ります。
でも、フィルユは何も話しませんでした。
カイはそんなフィルユが少し気になります。
自分は声を出して話すことはできないけれど、フィルユ君はどうして…。
しばらく飛び続けましたが、フィルユは辺りを飛び回っているだけで、青い小鳥は見えません。
「フィルユ君、青い小鳥はいる?」
フィルユは少し慌てて答えました。
「そ、そうだね、普段ならこの辺りにいるんだけど、今日は別のところに行っちゃったのかな…。」
青い小鳥は見つかりませんでした。
「青い小鳥、明日はこの近くにいるかな?」
フィルユは少し焦ったように、咄嗟に言葉を口にしました。
「そ、そうだ、カイ君が声が出るようにする方法とか…あるかもしれないよ。」
「えっ…!」
カイ達の心は再び驚きに包まれました。
でも、1番驚いていたのは、カイでした。
フィルユの言葉を聞いたカイは驚きすぎて、心の中でも言葉が浮かびませんでした。
自分がずっと悩み、コルウォやイヴン達と仲良くできない、原因のわからない不自由が自由になる方法があるなんて、信じられません。
カイは手紙をカイて、フィルユに渡しました。
フィルユが手紙を開くと、
「僕が声が出るようになる方法なんて、あるの?」
とカイてありました。
その字も、驚きが伝わってくるような字でした。
フィルユは少し言葉につまります。
「…ま、まあ、もしかしたら、あるのかもしれないって…』
ロキは元気に言いました。
「探してみようよ!あるかもしれないんだから!ねえ、カイ!」
カイもちょっとうれしくなりました。
みんなみたいに声を出して話せるようになるのかな?
僕が声を出して話せれば、コルウォやイヴン達とも仲良くなれるのかな…。
カイもうなずきます。
そんなカイ達も見て、フィルユは何も言わずにいました。
カイは思いました。
「(フィルユ君、何かあったのかな…)」
カイはフィルユが何か心に引っ掛かっていることがあるのか心配でした。
エズが言いました。
「何か方法を見つける手がかりはないかな?」
エズに聞かれたフィルユは、
「えーっと、そうだなぁ…」
フィルユははっきりと答えられません。
フィルユは少しして、言いました。
「その…ポーネー草っていう草があれば、方法が見つかるかも…」
「ポーネー草なんて草、初めて聞いたなぁ。」
「ポーネー草って、どんな草なの?」
「えっと、花びらがたくさんある、いい香りのする、きれいな赤い花、かな…」
「じゃあ、ポーネー草を探してみようよ!」
普段は心配症なレミははっきりと言いました。
カイもうなずきました。
もしかしたら声が出るようになるのかもしれない…。
リエはフィルユに聞きました。
「フィルユ君、ポーネー草はどんな場所に生えているの?」
フィルユはまた口を濁します。
「あ、日当たりのいい場所かな…」
「よし、ポーネー草を探してみよう!」
リエはカイを乗せ、リエ達はそれぞれポーネー草を探しに飛び立ちました。
カイはリエの背中で、フィルユのことを考えていました。
フィルユは話しかけられたり、何かを尋ねられても、口を濁したり、言葉につまってばかりいました。
カイは思いました。
フィルユ君は何か悩んでいることがあるのかな…。
カイも以前は、声が出せないこと、飛べないことを悩み、家にこもっていました。
自分が声が出せないこと、飛べないことでいじめられたりからかわれたり、他の鳥達にどう思われるのか怖かったからでした。
以前の自分と同じように、フィルユ君も何か悩んでいることがあるのか、カイはますますフィルユが心配になりました。
やがて、ユウとレミ、エズは、赤いチューリップを見つけました。
「赤い花だね。」
「でも、花びらは多くないよ…。」
「じゃあ、違うのかな…」
ラト、ロキは赤いアネモネを見つけました。
「これは、ポーネー草かな?香りは…?」
鳥は嗅覚が鈍いので、香りはよくわかりません。
ラトは記憶を辿りました。
「花の本で見たけど、これはアネモネっていう花で、香りは強くないんだって。」
「ポーネー草じゃなかったね… 。」
カイとリエは、木陰で赤いインパチェンスを見つけました。
カイは心の中で言いました。
「(これってもしかして、ポーネー草…?僕の声…)」
カイはリエに手紙を書きました。
「リエ、これってもしかして、ポーネー草かな?」
リエは言いました。
「そうね、でも、ここは日当たりはよくないかも…」
ここは、木の枝や葉にさえぎられ、地面の植物までなかなか日光が届きません。
カイはがっかりして、心の中でつぶやきました。
「(じゃあ、これはポーネー草じゃないのか…」
カイ達が夢中でポーネー草を探している中、フィルユは近くの池のそばの木にとまっていました。
フィルユが池をのぞいてみると、そこにうつっていたのは、とても悲しそうな、苦しそうな顔でした。
フィルユはため息をつきました。
「どうして僕はいつも…」
カイ達はその頃、一度ポーネー草が見つかったかどうか、集まっていました。
「どうだった?」
「見つからなかった…」
みんなは悲しそう。
カイは胸がグッとなりました。
自分の声が出るようになるかもしれない、ポーネー草をこんなに一生懸命探してくれるなんて…。
そのとき、カイはフィルユがいないことに気づきました。
カイはみんなに手紙を書きました。
「フィルユ君はどうしたのかな?」
「そういえば、戻ってないね…。」
「探しに行こう。」
リエはカイを乗せ、リエ達はフィルユを探しに行きます。
リエ達がしばらく飛んでいくと、池が見え、そばの木の枝にはフィルユがいました。
池は、カイ達が集まっていた場所からそう遠くなかったのです。
「フィルユ君!」
「あっ、みんな…」
「よかった、ポーネー草はあった?」
「え、えっとこっちもだめだった…」
「そっか…。」
そのとき、一羽の鳥が飛んできて、言いました。
「フィルユ、またあなた嘘ついてるのね!」
「えっ?」
カイ達はびっくり。
フィルユは黙り込んでしまいました。
その鳥はフィルユに言いました。
「フィルユ、どんな嘘をついたの?」
フィルユは言葉を絞り出します。
「え、えっと、僕はファクトっていう鳥だとか、カイ君達は伝説の幸せの青い小鳥を探して旅をしているんだけど、青い小鳥の居場所を知ってるって…声が出せないカイ君に、ポーネー草という草を見つければ、声が出るようになるかもしれないとか…」
カイ達は信じれません。
その鳥は言いました。
「あなたが嘘をつくのはこれで何度目?フィルユ、この子達に謝って!」
フィルユはシュンとして、
「みんな、ごめんなさい、僕、本当はファクトっていう鳥じゃなくて、ウソっていう鳥なんだ。青い小鳥の居場所も知らないし…ポーネー草なんて草もないんだ…全部嘘なんだ…」
そう言うと、フィルユはどこかへ飛び去ってしまいました。
「フィルユ君…」
「あれでいいの?」
「いいの、フィルユは嘘つきなんだから」
「でも…」
そこへ他の鳥達もやって来ました。
「またフィルユが嘘ついたの?」
「フィルユは懲りないね」
カイ達はフィルユが口を濁したり、言葉につまっていた理由がわかりました。
他の鳥達はフィルユは嘘つきだとフィルユを避けているようでした。
でも、カイ達にはフィルユは悪気があって嘘をついているわけではないように思えました。
リエは言います。
「フィルユ君はみんなを騙そうとしてるわけじゃないと思うの…」
でも、他の鳥達は、
「フィルユなんて口を開けば嘘をつくだけだよ」
「もう行こう。君たちもフィルユの嘘には気をつけてよ。」
他の鳥達は飛んで行ってしまいました。
でも、カイ達にはフィルユが悪い鳥だとは思えませんでした。
口を濁したり、言葉につまったりするのは、嘘にためらいがあるからです。
嘘にためらいがあるというのは、心の中に正直な気持ちがある証拠です。
カイはみんなに手紙を書きました。
「フィルユ君を探そう。きっと、何かあるんだよ。」
みんなもうなずきます。
「フィルユ君と他の鳥さん達の心の痛み…良くなればいいな…」
リエはカイを乗せ、カイ達はフィルユを探しに飛び立ちました。
一方、飛び去ったフィルユは、みんなが集まっていた場所から離れた場所にある、1本の木に樹洞を見つけました。
フィルユは樹洞に入り、そっと翼をたたみました。
フィルユは胸の痛みに耐えかね、フィルユの翼、樹洞の中がフィルユの心の雫で濡れていきました。
そのとき、自分を呼ぶ声が聞こえました。
「フィルユ君!どこに行ったの?」
「フィルユ君!」
リエ達の声です。
「カイ君達だ…」
でも、その声を聞いたフィルユは返事はできず、また新しい涙があふれ出てきました。
カイ達が自分の嘘に深く傷つき、自分を探していると思ったからでした。
するとそこに優しい声がしました。
「フィルユ君」
名前を呼ばれてフィルユは顔を上げると、そこにはカイ達がいました。
「みんな…」
カイ達の顔を見たフィルユは胸がズキンと痛み大粒の涙を流しました。
「みんな、ごめんなさい…」
フィルユはそれしか言えませんでした。
でも、カイ達は明るく言いました。
「フィルユ君、ここにいたんだ。よかった。」
カイもほっとしたような表情を浮かべています。
「えっ…?」
フィルユは驚きすぎて、言葉が出てきません。
「僕達、フィルユ君のことイヤなんかじゃないよ。」
「僕達、フィルユ君が悪い気持ちで嘘をついているとは思えなかったんだ。」
フィルユはもう一度驚きました。
リエは言いました。
「フィルユ君、心に何か引っ掛かっていることがあるの?無理に答えなくてもいいわ。」
フィルユは驚き終わると、少し穏やかな表情をして、ゆっくりと話し始めました。
「僕はウソっていう鳥なんだけど、それでみんなと仲良くなれなくて…」
フィルユが他の鳥達のそばに行って、
「こんにちは、僕はフィルユ。僕もみんなと遊んでいい?」
「ええ、あなたは何の鳥なの?」
「僕はウソっていう鳥なんだ。」
それを聞くと、他の鳥達は、
「えっ、ウソっていうの?」
「嘘をつくってこと?」
「変なの。」
他の鳥達はあまりいい顔をしませんでした。
フィルユは胸がチクっと痛みました。
「ウソの名前の由来は、「嘘・本当」の嘘じゃなくて、ウソの鳴き声は口笛に似てるから、口笛っていう意味の古語「うそ」なんだ。でも、みんなはそれを良く思ってくれなかったな…」
そして、フィルユはまだ自分が「ウソ」という鳥であることを知らない鳥達に会うと、「僕はフィルユだよ。僕とみんなと遊んでいい?」
「うん、フィルユはなんていう鳥なの?」
「僕は…」
フィルユは「僕はウソっていう鳥だよ」と言いかけましたが、他の鳥達に自分が「ウソ」という鳥であることを伝えた時の表情を思い出すと、嫌われたくなくてつい、
「僕はファクトっていう鳥なんだ。」
と言ってしまったのです。
「ファクトっていう鳥さん、初めて聞いたなぁ。」
フィルユはそれから、その鳥達と遊んでいましたが、やはり自分の心に嘘はつけません。
僕はみんなに嘘をついている…。
そう思うと、胸がちくちくします。
「フィルユ、どうかしたの?」
「えっ、あっ、大丈夫だよ…」
そこへ、フィルユが「ウソ」という鳥であることを知っている鳥がやってきました。
フィルユと遊んでいた鳥はその鳥にも声をかけました。
「ねえ、君も一緒に遊ぼうよ!」
「うん!」
フィルユは少し気が重くなりました。
みんなで話していたとき、フィルユと遊んでいた鳥は、フィルユが「ウソ」という鳥であることを知っている鳥に言いました。
「あのね、フィルユはファクトっていう鳥なんだ。初めて聞いたよ。」
「…!」
フィルユは慌てて止めようとしましたが、フィルユが「ウソ」という鳥であることを知っている鳥は言いました。
「えっ、フィルユは「ウソ」っていう鳥だよ。」
「えっ、そうなの!?」
「フィルユってやっぱり「ウソ」っていう鳥だから嘘つくんだね。」
それから、フィルユはみんなと仲良くなりたくて、自分が「ウソ」という鳥であることを隠そうと嘘をつくようになってしまったのでした。
他の鳥達は、嘘をつき続けるフィルユを信じなくなり、フィルユを嘘つきだと避けるようになりました。
フィルユ自身も嘘をついてばかりいる自分がどんどん嫌いになっていきました。
話し終わると、フィルユは悲しげなため息をつきました。
「みんなに嫌われたくなくて、嘘をついて、それでみんなから嫌われて…僕って本当の嘘つきになっちゃったのかな…」
フィルユの言葉を聞いたリエ達はかぶりを振りました。
フィルユはまた信じられないという顔をしましたが、か弱い声で言いました。
「でも、僕はカイ君達も騙した…嘘つきだよ…悪い鳥…」
フィルユの様子を見ていたカイは、はっとしました。
「カイ君、どうしたの?」
カイは手紙を書き、フィルユに渡しました。
フィルユが手紙を受け取って、開いてみると、
「僕も君と同じようなことがあったよ。僕は旅に出る前、森で暮らしていたんだ。僕は声が出せなくて、自分の翼で空を飛べなくて、そのことでみんなと仲良くできなかったんだ…。」
自分が持っているものでみんなに避けられ、自分もその現実から逃げようとする…。
カイはコルウォやイヴン達にいじめられたりからかわれたりするのがいやで、いつも家に閉じこもっていました。
「ウソ」という鳥であることから周りに避けられ、みんなと仲良くなりたくて嘘をついてしまうフィルユが、森で暮らしていた頃の自分と同じように思えたのです。
カイはどうすればフィルユと他の鳥達の心の傷を癒せるか、考えました。
カイは森を出て旅に出て、自分に起きた変化を思い出してみました。
周りと違う自分が暗い顔をすると、周りの鳥達は「うまく接することができていないのかな?」と不安になります。
コルウォやイヴン達も、カイにどう接すればいいのかわからなかったのかもしれません。
フィルユの周りの鳥達も、フィルユが「ウソ」という鳥であることを聞いて、「嘘・本当」と「ウソ」と思い、どう関わればいいのか悩んでいたのかもしれません。
そして、自分が周りと違うことを隠さず、早く伝えることです。
自分がまわりと違うことをどう思われるか怖がって隠していると、周りの鳥達はそのことを疑問に思うでしょう。
その疑問が大きくなると、受けられるのが難しくなってしまうこともあります。
そして…もう1つ。
自分が周りと違っても、自信を持って明るく過ごすことです。
明るい心は周りも明るくします。
自分にできることがあれば、それに力を尽くす。
カイはフィルユに手紙を書きました。
「ねえ、フィルユ君。「ウソ」っていう鳥の名前の由来をみんなに伝えてみたらどうかな?」
「名前の由来?」
手紙には続きがありました。
「僕、旅をしてきてわかったんだ。自分が周りと違っても、それを隠す必要はないって。それに、僕、本当のフィルユ君の方がずっと好きだもん。」
「本当に?どうして?」
カイはまた手紙を書きました。
「本当のフィルユ君の良さがわかったからだよ。とっても素直だし、そう、優しいし。」
「…。」
手紙の続きは、
「「ウソ」の名前の由来は、ウソの鳴き声が口笛に似てるからなんでしょ?フィルユ君、ちょっと歌ってみて。」
「う、うん…」
フィルユはドキドキしながら歌ってみました。
フィルユの声は、名前の由来の通り、口笛のような声。
弱めでやわらかいまさに口笛にそっくり。
今まで聞いたことのない、切ないような、誰かを想っているような、真っ直ぐ心に染み込んでくる声です。
フィルユが歌い終わると、リエ達は言いました。
「フィルユ君、すごいよ!」
「感動したな。」
「えっ…!」
カイはフィルユに手紙を書きました。
「フィルユの声、今まで聞いたことない、きれいな声だよ。自分が周りと違っても、自分に自信を持って明るく過ごせば、周りも明るくなると思うな。」
「自信を持つ…」
そして、最後の一文は、
「「ウソ」にしか出せない声、みんな、歌が好きだし、みんなと歌ってみるのはどうかな?」
「…うん!」
フィルユはうなずきました。
「さあ、みんなのところに行こう!」
リエはカイを乗せ、リエ達とフィルユは樹洞を出てみんなのところに向かって飛び立ちました。
「何の歌がいいかな?」
フィルユが考えていると、リエが歌っていました。

青い小鳥 みんなに幸せを運んでくれる
川の煌めきみたいに みんなを明るくしてくれる

それは、あの青い小鳥の歌でした。
リエは「フィルユと他の鳥さんが笑顔になれるように」と思い、歌っていたのでした。
フィルユが言いました。
「リエちゃん、それは何の歌なの?」
リエはちょっと恥ずかしそうにして、
「ここにくる前に会ったスズメのルリオ君、ムクドリのリンド君達と会ったときに一緒に作った青い小鳥の歌なの。」
それを聞いたフィルユは顔を輝かせました。
「青い小鳥の歌、僕にも教えて!」
フィルユの笑顔を見たカイ達はにっこり。
カイ達はフィルユにも、青い小鳥の歌を教えました。
「青い小鳥の歌、とってもすてきだね!」
やがて、他の鳥達の元につきました。
「あっ、フィルユ」
「どうしたの、また嘘つきに来たの?」
フィルユは胸が痛みましたが、カイの言葉を思い出して、勇気を出して、声を出しました。
「あの、みんな、「ウソの名前の由来は…」
「「嘘・本当」の嘘でしょ?」
「…ウソの鳴き声は口笛に似てるから、口笛っていう意味の古語「うそ」なんだ。」
「えーっ、嘘だ。フィルユ、ちょっと歌ってみてよ。」
「う、うん…!」
フィルユはちょっと恥ずかしかったけれど、歌ってみました。
名前の由来の通り、口笛のような声です。
フィルユが歌い終わると、他の鳥達は言いました。
「その…フィルユ、ごめん…」
「えっ?」
「「ウソ」の名前の由来は、「嘘・本当」の嘘じゃなかったみたいだし…それで勝手にフィルユが嘘つきだとか決めつけて、いじめたりして、ごめんなさい… 」
「フィルユの声、「ウソ」の名前の由来と同じで、すごくきれいだよ!」
フィルユは言いました。
「ううん、僕こそみんなに嘘をついたりしてごめんなさい。」
フィルユと他の鳥達の心の傷は、すっかり治ったようです。
その様子を見て、カイ達はにっこり笑いました。
一羽の鳥が言いました。
「フィルユの声、もっと聞いてみたいな。ねえ、みんなで何か歌ってみようよ!」
フィルユはにっこり笑って言いました。
「それなら、いい歌があるよ!ここにいる、僕を励ましてくれた、カイ君達が作った、青い小鳥の歌だよ!」
「青い小鳥の歌?」
「カイ君達は伝説の幸せの青い小鳥を探して旅をしているんだって。」
レミとエズが言いました。
「最近バードワールドが荒れていて… 」
「青い小鳥にしか歌えない魔法の歌があれば、バードワールドを救えるらしいんだ。」
「そうなんだね…」
フィルユが言いました。
「みんなで青い小鳥の歌を歌おう!青い小鳥が見つかりますように、って!」
フィルユの言葉を聞くと、みんなもにっこりうなずきました。
リエ達は声を合わせて青い小鳥の歌を歌いました。

青い小鳥 みんなに幸せを運んでくれる
川の煌めきみたいに みんなを明るくしてくれる
辛いときも花のように頑張れる元気をくれる
空の色は青い小鳥の翼の色
幸せは近くにあるはずさ
誰もがきっと青い小鳥

フィルユの歌声は、カイ達の心に、真っ直ぐ染み込んできました。
歌い終わると他の鳥達は言いました。
「フィルユの歌声は素晴らしいよ!」
「フィルユともっといろんな歌を歌いたいな。」
他の鳥達はフィルユに笑顔を向けます。
「みんな…ありがとう!」
フィルユもとてもすてきな笑顔を見せます。
リエ達も微笑みました。
その様子を見て、カイは1人何かを感じているようでした。
その夜、フィルユが入っていた樹洞で一夜を明かすことになりました。
「フィルユ君達と歌ったの、すごく楽しかったね!」
「何だか、歌声がキラキラしてるみたいだった!」
「ほら、早く寝ないと、明日がきついよ」
フィルユ達との歌のお話でみんなが盛り上がる中、何かを考え込んでいるカイに、リエが言いました。
「カイ、何かあったの?」
カイは手紙をカイて、みんなに渡しました。
みんなが手紙を受け取って、開いてみると、
「僕がどうして声が出ないのか、飛べないのか、理由がわかれば、コルウォ、イヴン達とも仲良くなれるのかな?」
ウソの名前の由来、フィルユが嘘をついていた理由がわかると、フィルユと自分達は打ち解けることができました。
フィルユと他の鳥達が笑いあっているのを見て、カイは自分の声が出ない、飛べない理由がわかればコルウォやイヴン達とも仲良くなれるのではないかと思ったのです。
「そうだね…」
「理由か…」
リエ達も考えます。
自分と違うことは、理由が気になります。
その理由がわかったら、好きになったり、見方が変わったりすることもあります。
でも、その理由を深く聞き出しすぎるのはきっとよくないことだとカイ達は思いました。
そして、どんなに調べても理由がわからないこともあります。
その時、リエ達はあの出来事を思い出しました。
それはまだカイ達が森で暮らしていた時のことでした。
「あの子、話せないし、飛べないんだよね…」
「家からもずっと出てこないし…」
その頃は、リエ達もみんなと違うカイを避けていました。
カイと仲良くする鳥は一羽もおらず、カイはひとりぼっちでした。
そんなある日、大きな嵐が森を襲いました。
リエ達は逃げ遅れ、木の枝に必死にとまっていました。
激しい雨が降り、風が吹き荒れます。
鳥は、雨が降ると羽が濡れてしまい、体温が奪われます。
「すごい風…怖い…」
レミは目を開けられません。
ユウは翼を広げて言いました。
「飛んで戻るしかないよ!」
「待って、ユウ!」
ユウは飛び立ちましたが、
「うわっ!」
強風に煽られ、下に落ちてしまいました。
「ユウ!」
リエ達は急いで翼を使って下に降ります。
ユウは木の下に落ちていました。
「ユウ、大丈夫?」
「みんな…」
ユウは痛みに耐えつつ、顔をあげました。
ユウの翼は尖った木の枝で少し赤く染まっています。
「あっ、翼が…」
「ど、どうしよう…薬、持ってないし…」
「こんな嵐の中じゃ飛んで戻るなんてできない…」
風が強い中飛ぶと体力も奪われます。
「だ、誰か…!」
リエ達は助けを呼びますが、雨や風の音に遮られ、他の鳥達の元まで届きません。
その時、雷の音が周囲に響き渡りました。
「わぁーっ!」
リエ達は体から強張ってしまいます。
その時、誰かの気配がしました。
「だ、誰?」
「こんな嵐の時に…?」
誰かの気配は、リエ達の方に近づいてきます。
よく見ると、それは、
「カイ…?」
リエ達の元に来たのは、あの話せない、飛べない、カイでした。
カイは泥だらけになっています。
カイの姿を見た、リエ達は驚きで胸がいっぱいでした。
カイは嵐の中、どうしてここに来たのか、という疑問でした。
カイは飛ぶことができないから、リエ達と同じように、逃げ遅れたのかもしれません。
でも、どこかに隠れていればいいのに、カイはリエ達の元まで来たようです。
カイ達はリエ達について来て、というように、翼を動かしました。
「うん、わかった!」
リエ達はカイの後をついて行きました。
カイは飛べないので、地面を歩いて進みます。
それでも、雨や風は容赦なくカイ達の身に降りかかってきます。
しばらく歩いて行くうちに、カイはフラフラとして、その場に座り込んでしまいました。
「カイ!」
カイは嵐の中リエ達の元に来たので、かなり体力を使ってしまったようです。
「どうする…?」
雨で羽毛が濡れたカイは震えています。
「カイ、体温が下がっちゃったのかな…。」
リエ達もうろたえるばかりです。
でも、カイは足にぐっと力を込めて、立ち上がりました。
「えっ、カイ?」
カイは行くよ、と言うように、また翼を動かしました。
「う、うん…」
リエ達も足を動かすものの、カイの身が心配です。
やがて、カイの後をついて行くうちに、木の穴につきました。
飛べないカイも入れる、木の低いところにある穴です。
カイ達は木の穴に入りました。
木の穴の中は、雨も風も入ってきませんでした。
カイはポーチから薬を取り出して、ユウの翼の傷に塗りました。
「あ、ありがとう、カイ…」
リエ達は冷えたカイの体に自分達の翼を当てます。
穴の中にみんなでいると、カイの体も少し温まってきたようです。
リエ達の胸には新しい疑問が生まれていました。
リエはカイに聞いてみました。
「カイ、助けてくれてありがとう、でも、どうして来てくれたの…?」
リエ達もカイにいじめをしてしまっていました。
嵐の中、どうしてカイは自分をいじめてしまっているリエ達を助けてくれたのか… 。
カイも、他の鳥達ときちんとした会話をしたことは、あまりありませんでした。
カイはドキドキしながら手紙をカイて、リエ達に差し出しました。
リエ達が手紙を受け取って、開いてみると、少し雨に濡れた便箋には、こうカイてありました。
「だって、放っておくなんて、できないから。」
普段はあまり外に出ず、少し暗いカイですが、この手紙には、まるでカイが声を出して話しているように、はっきりとカイてありました。
カイはみんなからいじめを受けていても、みんなを見捨てることはありませんでした。
森に嵐が来たとき、カイも最初は避難し、ルージャが鳥達が全員いるか確認していたとき、
「あれ、リエ達がいない!?」
「えっ、どうしたのかな?」
「もしかして、逃げ遅れた…?」
それを聞いたカイはルージャから薬を借りて、駆け出して行きました。
「カイ、どこに行くの?」
カイは「リエ達を助けに行ってくるよ」と手紙を残して、リエ達の元に向かいました。
カイは必死にリエ達を探します。
カイはみんながお互いを歌で呼び合っているのを思い出しました。
声が出せれば、みんなの名前を呼んで探すこともできますが、それはカイにはできません。
カイは心の中で言いました。
「(僕も声が出せれば、みんなを早く見つけられるのに…)」
カイはこのときは、自分が声が出せないことをさらに辛く思いました。
雨で体が濡れて、体温が下がってくると、カイはその場に座り込みそうになりました。
「(でも、こうしている間もリエ達は怖い思いをしてる、行かなきゃ…)」
カイは立ち上がり、再び駆け出しました。
こうして、カイはリエ達の元に来たのでした。
でも、まだリエ達はカイが「放っておくなんて、できない」自分達を助けに来てくれたことを不思議に思っていました。
ユウは言いました。
「でも、僕達はカイをいじめてた…それに、僕達を助けて何の意味があるの…?」
それを聞いたカイはまた手紙をカイて、ユウ達に渡しました。
「意味なんかないよ!でも、同じ仲間だから!」
「カイ…」
その純粋なカイの「言葉」はリエ達の胸に真っ直ぐに突き刺さってきました。
リエ達はカイに寄り添ったり、親切にしたりしていなかったのに、カイは自分たちを「仲間」として助けてくれました。
カイは、話せなくても、飛べなくても、鳥であることに変わりはありません。
リエ達は胸がぎゅっと締め付けられました。
リエ達はカイに言いました。
「カイ、ごめんなさい!」
「・・・・・・!」
「カイだって、同じ仲間なのに…」
「周りと違う、それは悪いことじゃないね。」
ラトが言いました。
「僕たち、カイがどうして声が出せないのか、飛べないのか、その理由を気にしていたけれど…理由なんてわからなくていい。違うことよりも、カイの良さがわかったから。」
「カイは勇気があるし、それにすごく優しいし。」
「カイ、ありがとう!」
カイもにっこりとうなずきました。
すると、雨や風がおさまってきました。
嵐が過ぎたようです。
「嵐が過ぎたんだ。」
「みんなのところに戻ろう!」
カイ達の木の穴の外に出ました。
外に出ると、カイはリエ達に手紙を渡しました。
「僕は飛べないから歩いてみんなのところに戻るよ。」
リエ達は首を横に振りました。
「・・・・・・?」
不思議そうにするカイに、リエは言いました。
「カイ、わたしの背中に乗って。」
カイは驚き、手紙を書きました。
「リエ、いいの?」
リエは言いました。
「わたし達、カイと空を飛びたいの。」
ラト、ロキ、エズ、レミ、ユウもにっこりとうなずきました。
その言葉にカイは胸がいっぱいになり、涙が出てしまいました。
あの涙は明るい涙でした。
カイはまた手紙を書きました。
「みんな、ありがとう!」
カイはリエの背中に乗りました。
リエ達は翼を動かし、青い空へと飛び立ちました。
カイは自分がいつも見上げていた空の世界に、リエ達が連れて行ってくれることに、ワクワクとドキドキでいっぱいです。
カイはリエの背中から下を見下ろすと、いつも過ごしていた森がまるで別の世界のように見えました。
「・・・・・・!」
木や草花、川、あらゆるものが小さく見えます。
カイは、目を凝らして、森の自分が知っている場所を探してみました。
「(あそこは、僕の家…あっちは、毎年たくさん綺麗な花が咲く場所…向こうは、水面を見ているといつも気分が落ち着く川…)」
ミニチュアの中みたいで、不思議な気持ちです。
上を見上げれば、青空が広がっています。
いつも見上げていた空は、想像以上に大きく広く、そして美しいものでした。
自分が大きくなったような、空が落ちてきたような…。
言葉では言い表せません。
空の上で風に吹かれるのは、とても素晴らしいものでした。
空の上は、まるで夢の世界のようでした。
そして、何よりもリエ達が自分と空を飛んでくれている…。
カイはこんなに心があたたかくなったことは初めてです。
やがて、他の鳥達の元につきました。
リエ達はそっと地面に舞い降りました。
降りる時も、少しずつ地面が近づいてくるのに、カイはドキドキ。
カイはリエの背中から降りて、手紙を書きました。
「僕を空の世界に連れて行ってくれてありがとう!すごく楽しかった!」
リエ達もにっこりと笑いました。
地面に降りると、他の鳥達が駆け寄って来ました。
「よかった、みんな!」
ルージャがカイに言いました。
「カイも大丈夫だったかい?」
カイはうなずき、薬をルージャに返し、手紙を書きました。
「薬、すごく役に立ちました。ありがとうございます。」
ルージャは言いました。
「そうか、よかった。」
ユウが言いました。
「僕、翼にケガをしちゃったんだけど、カイが薬をつけてくれたんだ!」
ユウはすっかり元気です。
レミが言いました。
「それじゃあ、カイ、泥を落とそうか」
カイはうなずきます。
リエは再びカイを乗せて、リエ達は川の方に向かって飛び立ちました。
カイの羽毛が泥で汚れていても、リエは気になりませんでした。
この出来事がきっかけで、カイが声が出せない、飛べない理由がわからなくても、カイ、リエ、ラト、ロキ、エズ、レミ、ユウは仲良くなったのでした。
リエは言いました。
「みんなはウソの名前の由来だけじゃなくて、フィルユ君の歌声、素直さ、優しさに惹かれたと思う。わたし達、あのとき、わかったの。違う理由じゃなくて、その子の本当の良さが大切だって。」
「…!」
「違うことは悪いことでも劣っていることでもないからね。違っても、みんなと仲良くなれるよ。」
「・・・・・・!」
カイの顔が輝きました。
「それじゃあ、寝ようか」
「おやすみなさい」
カイ達は眠りに着きました。
フィルユと、他の鳥達の心をつなげたことで、カイ達は新たなことを知りました。
1つは、嘘の秘密でした。
嘘をつくことは、いいことではないけれど、周りに好かれたい、という気持ちから生まれてしまうこともあるものであること、嘘をついている人の本当を気持ちを考えることでした。
もう1つは、周りと違う子がいても、その理由よりも、その子の本当の良さが大切だということでした。
周りと違う子がいれば、その理由が気になるし、どう接したらいいのかわからないかもしれません。でも、その子のことを知ったら、その子と心がつながることもある、ということでした。
カイはあたたかく優しいリエ達に囲まれて、

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